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武家屋敷で出雲そば

ぶけやしきでいずもそば 

食べる松江エリア平成時代

「武家屋敷で出雲そば」などと、当世流行(はやり)の「歴女(れきじょ)」でなくとも心曳かれるこの企み(たくらみ)。文豪ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が愛した古都を心に刻み、はたまた「神々の集う月(神在月)」のあることを、そして「割子」「釜揚げ」、他所には無類の蕎麦の食し方のあることを広く伝えていく役割を果たすには格好の店構え。さて、そこで蕎麦と酒は何を物語るのかと興味津々。


屋敷の門をくぐると、手入れの行き届いた日本庭園。野点(のだて)趣向の緋毛氈が鮮やかに目に飛び込む。背後の竹林を写し込む池の錦鯉も見事としか言いようのないロケーション。更に「松江藩剣術指南役・大石源内屋敷跡」の看板に追い打ちを掛けられ、案内された座敷でついと正座してしまう。
満面の笑顔で「お気軽にどうぞ」と若女将の木山明美さんが差し出すお品書きはやはり評判の「鴨なんばんそば」が筆頭に書かれている。そこはそれ酒飲みなのだから「お酒は何が?」と尋ねれば「食前酒は豊秋で、人気があるのは李白の辛口ですね」とこれまた笑顔で返される。そうくるならこちらもと両方を順に所望。いささか下品な注文の仕方だが「手打ち」にはなるまい。
酒のアテにと「三色わさび」。海苔、葉、茎のわさび三昧は蕎麦や酒との相性は「蕎麦喰い、酒飲み」にはもはや語るべき話でもなかろう。つんと辛みを味わえば若女将が差し出す豊秋純米醸造には「八雲庵」と銘打ってある。独特の甘さが抑えてあり、なるほどこれは食前酒にうってつけ。
「砂丘とろろ」は鳥取砂丘産山芋。ねっとりと喉へ攻めてくる。小鉢なのに量が多く感じるが案外「すすっ」と胃袋に納まりこれも蕎麦と酒との相性は言わずもがな。「おあげさんの甘煮」に至っては丁寧な味付けが既に李白特別純米酒辛口「やまたのおろち」を目と舌が欲しがる。生酒がぐいと喉を通る度に箸がすすむ。添えられた薬味の地産ネギもいい。普段ならこの辺りで店主(木山英俊さん)登場なのだが「主人は職人で広報は私」とまた笑顔。そうか、この蕎麦屋は武家屋敷の景観と、若女将の愛想とそして職人気質の店主の腕が渾然一体となってもてなしているのだろうと納得。美味なる品々平らげ続け身も心も充足。これでは本命の「鴨なんばんそば」に行き着かぬとの躊躇が顔に出たのか「鴨汁割子そば」は如何ですかと勧められる。椀に入った鴨汁に割り子を一箸ずつ浸して食すのは、蕎麦の入らぬ鴨なん(鴨ぬき)と割子そば。いやはや酒飲みの心を見抜く一品。この「こく」と「旨味」のある熱い汁と、こしのある冷たい蕎麦がもう一献と先刻の満腹感も消し飛んだ。しかも「鴨なんばんそば」が売り物の店数多(あまた)あれど、噂通り、評判通りの味付けは納得がいく。
ほろ酔い気分で店を出て、堀川遊覧するもよし、松風騒ぐ古城を散策するもよし。これ以上の贅沢は無かろうと満ち足りて帰路につくは八百万(やおよろず)の神々ばかりではあるまい。

八雲庵
住所:松江市塩見縄手308
電話:0852-22-2400
営業時間 10:00〜15:30(ラストオーダー)
定休日:正月の元旦・2日
駐車場:お店向って左隣に5台




そば用食前酒と辛口やまたのおろち

そば用食前酒と辛口の地酒

ならんだ酒の肴

さまざまな酒の肴

わさびの3種盛りの酒肴

三色わさび

鴨汁に割子そばをつけて食べる

鴨汁割子そば