メニュー


ほんのり酢とネタが奏でるシンフォニー

ほんのりすとねたがかなでるしんふぉにー 

知る食べる出雲エリア平成時代

 神門通りを出雲大社に向かって歩く。境内の手前に差し掛かると急な上り坂が待ち構えている。そのままお参りに向かうのもいいが、少し脇道に逸れてみる。団子屋さんの角を右に、東へ向かうと直ぐに見えたのが『やくも寿し』。大社さんのお膝元、お寿し屋さんのご主人には素敵な物語があった。


 先代の時からあるこちらのオススメは“蒸し寿し”。関東風のちらし寿司が木で作られた角型の器に収められ、そのまま蒸されたものだ。ネタは穴子、煮ダコ、白魚、エビ、牛時雨、サヤエンドウ、しいたけなど、いずれもご主人の丁寧な仕事が施されたもの。それらのネタが、酢飯の上に金色の絨毯のように敷かれた錦糸卵の上にバランスよく並んでいる。そんな姿をご主人自ら詩(うた)にした。
 〜ほかほかとした“酢”の香り&温かい煮穴子、煮だこ、白魚えび達が奏でるシンフォニー♪♬♪〜
 (様々な具材を酢飯の上にのせた)ちらし寿司は京都を中心として主に関西地方に多い。関東などではあまり見られないこともあり、大変珍しがられると話すご主人。更に、酢飯を蒸すので人によってはツンとくる湯気に咽ることもあり、遠慮がちになる。今のご主人はそれを改良して“咽ない蒸し寿し”を開発した。どんな工夫があったのか聞くと、「内緒です。食べたらわかります」と笑っていた。
 ランチではにぎり7貫に天然真鯛とイカの漬け、“出雲づけそば”と名付けた出雲そばを添えている。寿しの7貫もさることながら、ご主人がこだわるのがそば。麺は近くの製麺所で打たれたものだが、ご主人のこだわりはそこから。茹でたそばをなるべく早くお客さんに出す。「おそば屋さんより気を使ってます」と胸を張る。単なる寿しのお供ではなく“出雲そば”に敬意を表した姿なのだ。そば出汁も自家製。そばの香りを引き出す味はやはり大社独特の甘辛風だ。
 そんなご主人、若い時から先代と今のお店を切り盛りしていることから、外での修行経験が無いのかと思いきや、こんな話をしてくれた。
 「他所ではどんなことしてるんだろう?と思い、親に内緒で夜だけ他のすし屋さんでアルバイトをしていたんですよ」とやや照れながら当時を振り返る。当時は出前のみの営業で夜は八時で仕事が終わるので、その後の時間を独自の“修行”としたのだった。「でもある時バレちゃってねぇ。気まずかったですよ。多分知ってて来たのでしょうけどね」。内緒の筈がいつの間にか黙認だったというわけだ。そんな修行も24歳で終え、先代が亡くなるまで傍らで腕を磨いた。40歳の時にお店でも味わえるようにリニューアル。更に2010年から半年かけてランチを開発した。
 現在、お昼はランチと要予約の寿司会席に出前。夜はカウンタとお座敷の営業で地元の新鮮なネタのお寿しを中心に、同じく食べ頃の地元魚介類を使った肴と共に“大社の夜”を味わえる。土日は仕出しなどと重なりお昼のランチは提供できない場合もあるので確認が必要とのこと。
 大社さん詣の腹ごしらえに地元の味満載のお寿しやさんに寄ってみては如何?




お店の外観

お店の外観

店内のカウンター、お座敷もあります

居心地良さそうな店内のカウンター

ネタ達がシンフォニーを奏でる蒸し寿し

ネタ達がシンフォニーを奏でる蒸し寿し

出雲づけそば用の小鯛のづけ

出雲づけそば用の小鯛のづけ