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コンセプトは「健康」

こんせぷとは「けんこう」 

食べる松江エリア平成時代

 温泉に浸かり、萱葺き屋根の民家風レストランで囲炉裏(いろり)を囲んで蕎麦を食すなどとこの上もない贅沢。国道(9号線)からほんの僅か里山に入るロケーションもどこか心安らぐ。温泉、食事、スポーツセンター、農産館と欲張りな施設、町挙げての健康作りは地域密着型。「茶屋」と称するからには酒、肴も期待が持てる。にも増して「天神蕎麦」を出すとの評判は聞き捨てならぬ、嫌が応にも蕎麦食いの血が踊る。


 「出来るだけ地元の食材を使い、世代を超えたお客様をお迎えしています」、第三セクターが経営運営する「きまち湯治村 いろり茶屋」の責任者内田秀男さんに案内され、囲炉裏テーブル席に着く。見渡せばいかにも民家風の設えで、ゆったりとしたスペースは隣席を気にせず食事が出来る配慮。隣の「大森の湯」から渡り廊下で入れば、先ずは「湯上がりビール」からと小さめのグラス。お品書きに全国の有名な酒が並ぶ中、奥出雲の銘酒「簸上正宗(ひかみまさむね)」の文字を見たのが所以(ゆえん)。米所横田の酒がここで飲めるのはこの上ない幸せと、先ずは「刺身こんにゃく」をあてに蕎麦の登場を待つ。何も加えていない地産の「こんにゃく」は色白素朴で、ぷるぷるの食感。酢味噌だれを付けていただく。なるほど「健康」と、良き香りと共に運ばれたのは猪(いのしし)料理。一人前の鉄板の上でニンニクの小片が焼かれつつ相方の猪肉を待っている。「猪の鍬焼きです」。なる程、鉄板と思ったのは畑で使う「鍬(くわ)」で、刃を付けないで作った特注品。「来待石(きまちいし)でもやってみたんですが、熱効果がどうも」と、猪を焼く板も地元のものでとの研究工夫。元来『古事記』にも登場するこの地「宍道町」(しんじちょう)の名は、猪に由来すると聞く。まさしく地元の材で「スタミナ健康」。肉は柔らかく旨しとくれば「簸上正宗 上撰」にご登場願わねばならぬ。内田さんに酌してもらうコップ酒は、もはや大名気分。
さてこれからが本命の「天神蕎麦」のご登場。
「天神蕎麦」はいろり茶屋から車で約五分、同じ町内にある菅原道真(すがわらみちざね)生誕の地とされる菅原天神付近の「まぐら山」の水を使い、宍道産の蕎麦の実を使用した出雲蕎麦のことを言う。発祥は菅原天神横の「天神工房」。そこは土日のみの営業ゆえ、多くの人に味わっていただくために、農産館でも、作り販売もしているとの説明。つまり、幻の蕎麦ではないかと心ときめく。
割子は三段重ねで一番上に薬味の器がもう一段。ここの出汁は甘めの大社風(松江は辛く大社は甘い。出雲はその中間という説がある)。蕎麦を口に運んで驚いた。香り、味、姿は紛れもない出雲蕎麦。しかし食感がちと違う。「もちもちっと」して、かといって硬いわけでも柔らかいわけでもなく、うどんのようでもない。この食感も加えて「天神蕎麦」の風味とすべしと納得。食材のみならず製法や味まで含めての地元オリジナリティに感服。経営側の研究努力のたまものは確かに世代を超えて次代に継がれる。
初物に心動かされた悔しさ紛れに、内田さんが所用で席を立ったその時、悪戯したくなるのは小生の悪い癖。枡に残った「簸上正宗」を蕎麦に振りかけ、ズズっとすする。いやはや全く別の出雲蕎麦。これもまた美味しく戴きました。




ぷるぷるの刺身こんにゃく

ぷるぷるの刺身こんにゃく

イノシシ肉の鍬(くわ)焼き

イノシシ肉の鍬焼き

割り子そば

割り子そば

いろりを備えた店内では、季節にはおでんもある

いろりを備えた店内