「出雲そばに飽きたらどうぞ」
大鳥居に程近い「大正庵」では10年前から“出雲そば炒め”をメニューとして出している。その名の通り、出雲そばを炒めたモノ。一般的な焼きそば風ではなく、汁気の多いのが特徴だ。
自前の手打ちそばをさっと茹で、冷水でしっかり締める。具はシメジとエノキと白ネギだけ。これらをごま油で炒め、そこに出雲そばを投入。熱が行き渡ったところで器に移し、ノリをふりかけ完成。
とろみかかったアッツアツをハフハフしながら口に運ぶと、最初に来るごま油の風味の後からそばの食感と風味が追っかけてくる。ついつい食が進み、気が付いたら完食。主食としてはもちろん、お酒のつまみとしても合うかもしれない。実際に宴席のオードブルの途中に出すと、珍しさと口直しで箸が集まるのだとか。
この“出雲そば炒め”、具も少なくシンプルではあるが、実は試行錯誤の賜物である。最初はサラダ油やオリーブオイルで試したが、今ひとつ個性が出なかった。「ごま油は蕎麦の風味を押さえてしまうので悩んだけど、一番美味しく仕上がった」と話すのは、父親とお店を経営する春日さん。麺の味と食感を損なわないよう、麺に馴染むような具を選んだ。シメジは縦に細く裂き、エノキと共に麺と同化させた。そばを中心に全体がまとまっており、一口目から一気に食する流れができている。確かにこれなら余計な個体の具は要らないかもしれない。
和食の名店で修行した春日さんが実家である大正庵に帰ってから“出雲そば炒め”がある。日本料理でもそばを魚で巻いて蒸す料理があるが、実は“焼いた日本そば”は全国各地にある。代表的なのが山口県の「瓦そば」である。また、普通の焼きそば風で麺だけ変えた例もある。そんな中、「大正庵」では自分の店の出汁をベースにしたオリジナルにしたのだった。
出雲そばの地では焼いた状態のメニューが少なかったこともあり、「大正庵」の“出雲そば炒め”はやや邪道的な視線を浴びていた。しかし、近年では焼いた出雲そばも他のそば屋でメニューに加えられる動きがあり、追い風にもなっている。
ただ“出雲そば炒め”には決定的な弱点がある。実は麺が急激に水分を取るため、麺の伸びが早いのだ。だからなるべく出来立を直ぐに食さなければならない。出前には絶対向かないのだという。それ故に「ここだけでしか味わえない」逸品になっているのである。
猫舌さんにはちょっと苦手かもしれないが、出来立のアッツアツを「ハフハフ」しながら、是非どうぞ。
大正庵
営業 11:00〜23:00
定休日 不定休
住所 出雲市大社町杵築南1399−4
電話 0853-53-2454