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めざせ出雲の国の西のくに

めざせいずものくにのにしのくに 

食べる出雲エリア平成時代

国道9号線を行くこと、約半時間。市街地を抜けてレンタカーでの快適なドライブは続く。少し早めの休憩を。日本海が見えた頃、たどり着いたのはいちじくの街にある道の駅「キララ多伎(たき)」。海岸のカフェ。軽くおなかを満たしながら、一緒に出雲の時間を味わう。


出雲市駅。近くで借りたレンタカーに乗り、慣れないながらもナビに目的地を入力する。道の駅「キララ多伎」。道の駅とは全国の一般道路にある休憩所であり、その地域独自の文化、特産物が提供される場所のこと。車での移動の際、途中のトイレ・休憩の強力な味方であるだけでなく、周辺地域のミニガイドや特産物が入手できる拠点でもある。周辺に暮らす人びとがサービスを提供することが多いため、その土地の言葉や空気が伝わる。旅をちょっとお得に、ちょっと豊かにさせる場所なのだ。
国道9号線を約半時間、西に進んでいく。少々起伏のある道。緩やかな坂を上りきると、海と空を背景にレンガ造りの建物が現れた。
目的地、道の駅「キララ多伎」。ここは出雲市の最西端、多伎町。海と山とに囲まれた町だ。
「多伎」といえば、いちじく。近年町内の新たな泉源の出た温泉にその名が付けられた程、多伎町はいちじくの生産が盛んな街だ。ここで生産される品種「蓬莱柿(ほうらいし)」はその名から柿と一瞬錯覚しそうだが、じつはこの名はいちじくの別称とも同じ。
いちじくは元もと旬である8月下旬から10月上旬にしか食べられない果物だが、特にこの「蓬莱柿」は濃厚な甘みがあり、 生食が一番のオススメ。ただし皮が薄く長く日持ちしないので、生で食べられる機会はかなり貴重だ。その濃厚な甘みを、他の季節でも楽しめるようにか、キララ多伎にはいちじくを使った特産品がたくさんある。
その筆頭である「いちじくソフトクリーム」は気軽に楽しめる。文字通り、たとえ目の前に荒波激しい冬の日本海が広がっていても、ついその誘惑に乗って頬張ってしまうだろう。
休憩スペースで眺める空と海。雲ひとつ無い空は珍しく、凪いでる水面はさらに珍しい。特に海の凪は一年でも数日しか見られないため、もし目にすることができたら、非常に幸運だ。ただし、海が比較的綺麗なので、夏は海水浴でにぎわう。それも波打ち際まで何層も人の群れを掻き分けて、という混雑した海水浴場ではない。砂に埋まって、すぐに波に走り出せる場所だ。
「大人気!海鮮たこ焼き」は、一転多伎が海の街であることを思い出させる。このたこ焼、一味どころか二味三味違う。一舟6個入り。3種の海の幸が、あつあつふわっふわの生地に包まれている。猫舌だという理由もあるが、じっと待つのもまた楽しい。その数分も惜しくない程、食べたあとには満足の吐息が出てしまうからだ。
ぶらり歩いた特産品コーナーでは、所狭しと並べられているお土産物にカウンター・パンチを食らった。いちじくジャムやいちじくアイスなどはまだ序の口。いちじくワインにいちじくカレーにいちじくシフォンケーキ、いちじく羊羹にいちじくのしそ巻き!ゲシュタルト崩壊を起こしそうな程、「いちじく」だらけなのだ。
ビタミンB1、ビタミンC、鉄分を含み、ペクチンという食物繊維を豊富に含んでいるいちじく。果実はお通じなど整腸作用に。葉はお風呂に入れて神経痛や冷え性に。じつは古くから民間薬として使用されていた身近な果物だ。
旬しか味わえなかった いちじくはいま、さまざまな加工を経て色いろな形で年中楽しめるようになった。キララ多伎西側のキララベーカリーで買った焼きたての「いちじくくるみパン」とともに、現代ならではのぜいたくを文字どおり噛み締めた。
道の駅「キララ多伎」をあとにし、再びレンタカーで国道9号線を西へ。少し進んだ右手、海岸沿いに喫茶「蒼」はある。
5、6台車を止められる駐車スペースは砂地で、しっかり区切ってある訳ではないが、そこは譲りあい。 流木で作られたテラス。少し狭い入り口は路地のようで、その先に待つ光景に心が躍る。
店内。細い木枠のガラス窓から臨めば、そこは砂浜と海。手を伸ばせばすぐに届きそうな距離は、建物の高さがうみ出した絶妙な感覚。カウンター席の向かいの奥で、ロマンスグレイのご主人が「お好きな席を」と勧めてくれた。その手元では銀のケトルからペーパードリップのなかのコーヒー豆へ、ひとすじの熱湯の道が出来ている。ゆっくりあせることなくていねいに注がれる湯の泡立つ音が、木で囲まれたこのカフェに響く。
島根の海は比較的綺麗だが、砂浜にはどこを(海を、人の手を)どう流れ着いたかゴミが落ちている。ここのカフェの砂浜は、砂と自然の漂着物しかない。悲しいことだが不思議に思って尋ねると、周りに流れ着いた人工物は毎日ここのご主人が取り除き、綺麗にしているのだとか。 その手間に支えられているこの光景が、さらに時間の縛りを忘れさせる。
読みかけの厚い本。出しそびれた手紙。白い日記帳。パソコンに慣れた頭に、ペンと紙だけの新鮮な時間を。あるいは液晶ではなく、インク活字を。ひねもすのたりのたり。出雲時間はゆったり過ぎていく




海側から見たキララ多伎。

キララ多伎

「大人気!海鮮たこ焼き」はあつあつ

大人気!海鮮たこ焼き

喫茶「蒼」からのながめ

喫茶「蒼」からのながめ

喫茶「蒼」にて。ちょっとした心配りがうれしい。

喫茶「蒼」のコーヒー