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花咲くぜんざい談義

はなさくぜんざいだんぎ 

食べる出雲エリア平成時代

縁結びで知られる出雲市大社町の出雲大社。
正門前から大鳥居(おおとりい)に向かって伸びる「神門(しんもん)通り」の坂道で、ピタリと足がとまった。
そこは「日本ぜんざい学会壱号店」という名のぜんざい屋さん。
懐かしい町家風情と看板に記された「ぜんざい発祥の地出雲」の文字に心のアンテナが揺れた。勇んで木戸を開ければ、体を包むあまい空気。壁のお品書とにらめっこが始まった。


出雲ぜんざい、出雲珈琲ぜんざい、ぜんざい餅……この店のお品書はなんて罪つくりなのだろう。迷ったあげく注文したのは出雲ぜんざいと出雲珈琲ぜんざい。ふくらむ期待とともに、墨書きの掲示物を読んでみた。
ーなになに、ふむふむ。ぜんざいの起因は、旧暦10月、出雲地方に全国の神様が集まった神在の時に、民間で作っていた「神在(じんざい)餅」にあるという。じんざいが出雲地方の訛(なま)りでずんざい、さらにぜんざいとなって京都に伝わったーとある。
 「じんざい、ずんざい、ぜんざい」と連呼していたところ、日本ぜんざい学会の広報部長早川正樹(はやかわまさき)さんが微笑みながらぜんざいを運んできた。同会は出雲地方をぜんざい発祥地としてPRする会で、この店が同会のおもてなしの場だ。
 「赤豆をにて餠を入まいらせ・・・・・・・」。早川さんが神在餅について書かれた江戸時代の仮名草子『祇園(ぎおん)物語』の一説をそらんじると、器を手に頬ゆるます古人が目に浮かんだ。
  
さて、待望の出雲ぜんざいは小豆粒たっぷりの小豆汁に紅白の丸い白玉入り。モチモチとした白玉とふっくらとした小豆。その食感と自然な甘みに舌がとろけそう。珈琲ぜんざいはほろ苦味と甘みが程よく調和した新発見のおいしさだ。
その他同会の認定店を巡れば、縁結びにちなんだソバ団子のぜんざいなど個性豊かなぜんざいが食べられるそうだ。ぜんざいのはしごも楽しそう。旅の予定がふくらんだ。

浮かれ気分でいたところ、ヤッケ姿の熟年グループが店に入ってきた。意気消沈気味に見えるのは、近くの弥山(みせん)に登山の予定が悪天候で断念したから、と。
ぜんざいを注文する頃には笑顔がこぼれ、花が咲いたぜんざい談義。というのもみなさんが住む出雲地方のあちらこちらでは正月の雑煮(ぞうに)としてぜんざいが食べられ、ハレの食事として愛され続けているからだ。 
この雑煮は「小豆雑煮」と呼ばれ、塩味あるいは味のない小豆汁に餅を入れ、食べる時に砂糖で甘みを調合して食べるという。「ぜんざいと聞くと神聖な気分になるんですよ」と語るご婦人に一同がうなずいた。
聞けば、近年、大社町の神迎えの道や松江市の佐太(さだ)神社近辺に住む若者達も、神在祭の頃にぜんざいをふるまうという。出雲地方のぜんざいは先人たちの営みの証。おなかの底から幸せがこみ上げてきた。
ぜんざい談義に別れを告げて通りに出る。すべてが晴れ晴れとして見えるのはぜんざい効果?土産に買ったぜんざい餅を頬張りながら、町歩きを楽しむことにした。




ひと休みいかが?日本ぜんざい学会壱号店

ひと休みいかが?日本ぜんざい学会壱号店

紅白の白玉団子がかわいい「出雲ぜんざい」

紅白の白玉団子がかわいい「出雲ぜんざい」

町歩きのお供に!「ぜんざい餅」

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ソバ入りソバ団子のぜんざい(田中屋・大社町)

ソバ入りソバ団子のぜんざい(田中屋・大社