うず煮は、寒さ厳しい旧暦元旦、
福縁を授ける出雲大社の「福神祭」などで、
祭りを手伝う人たちにふるまわれる料理。
出雲大社の出雲国造(こくそう)家に代々伝わるおもてなしの味だ。
近年、町内の旅館や飲食店でもいただけるようになったと聞き、
さっそく、出雲市大社町の料亭を訪ねてみた。
うかがったのは、出雲大社に程近い料亭「ゆたか亭」。かつて福神祭の手伝いでうず煮を食べた経験を持つご主人の前島健二さんが、特別な準備をして迎えてくださった。
はじめは、うず煮の出汁(だし)や具材に余すところなく使われるマフグとの対面。古くから地元で獲られてきたこの愛嬌(あいきょう)者は、ナメタフグとかナメタロウという愛称を持つそうだ。その理由は棘(とげ)を持たないから?理由は定かでないけれど、親しみが感じられる。
続いては盛り付けの実演。まずお碗に盛られたのはとろりとした具だくさんの汁。続いてはご飯、岩海苔(のり)、ワサビが盛られ、できあがり。湯気(ゆげ)に合わせて岩海苔が踊れば、心も躍る。
さて、食べる際にはよく混ぜ、かきこむのがうず煮流。なるほど、かきこめばふわふわとろりと幸せな口当たり。フグ出汁と岩海苔のコンビが奏(かな)でる磯風味に、山の幸のワサビがピリリ。さらにはひょっこり顔を出すやわらかなフグの身。甘辛味をたっぷりふくんだ椎茸(しいたけ)とかんぴょう。セリのほろ苦味。主役も脇役もいいお味だ。
食材は奈良時代に編さんされた『出雲国風土記(いずものくにふどき)』に記されたものばかり。古代出雲は海、山、川に囲まれた豊穣(ほうじょう)の地だったと聞けば、うず煮は古代の恵みの象徴に思える。
ところで、祭でふるまわれるうず煮は丼に山盛りとかなり豪快(ごうかい)だそうだ。具は大ぶりでワサビはピンポン玉大。味は淡白ながら、とろみはご飯が沈まない程しっかり。ダイナミックなもてなしが、手伝いで冷えた体を心底暖めることだろう。
さて、お楽しみは、うず煮同様『出雲国風土記』に記される食材などを使った松花堂弁当、吸い物、茶碗蒸しへと続く。これらがセットになった「うず煮膳」で予約ができる
薬用人参、むかご……食材の薬効も説明してくださる前島さん。それにはわけがある。古代の出雲は都に53種の薬草を献上(けんじょう)した薬草の宝庫。その歴史に触れてくださったのだ。
一品一品が健康の源。福神様は健康という最高の宝を授けてくれた。
※ 紹介した料理は一週間前の予約が必要。町内10ヵ所の店で提供されているが、料理の内容は店によって若干の違いがあり、食材の調達が難しい時期は受付不可の場合もあるので問い合わせが必要。