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江戸時代から平成へ。愛され続ける伝統の味

えどじだいからへいせいへ。あいされつづけるでんとうのあじ 

食べる出雲エリア平成時代

出雲大社の門前町・出雲市大社町。町を代表するお使い物は?と地元の人に問えば、よく耳にするのは「高田屋さんの羊羹(ようかん)」の声。理由は贈っても贈られても嬉しい逸品だから、と。
 地元でお墨付きの高田屋は創業180余年の老舗菓舗。一筋に追及された伝統の味は、数え切れないほどの人たちに甘やかなひとときと、極上の笑顔を贈り続けている。


 町の人たちから幾度となく名を聞かされた「御菓子司高田屋」は、旧暦十月十日、全国の神々が出雲大社に向かわれる時に通られる道、通称「神迎えの道」沿いに静かに佇(たたず)んでいた。
 黒瓦に映える白壁、煙だしの小屋根、格調高い金文字を刻む朱色の看板、昔は畳敷きだった一段高い帳場(ちょうば)や年季の入った菓子棚。明治初年に建てられた店舗の風格に体内時計が逆戻りしていくような気がした。
 創業時頃の江戸後期といえば、出雲地方では松江藩主松平不昧(ふまい)の影響もあって茶の湯が盛んになった頃。社寺参拝が物見遊山ともなって庶民に定着した頃とも聞いたことがある。出雲大社につめかけた全国の参拝者は、お土産選びに好みの暖簾(のれん)をくぐったことだろう。耳を澄ませば、店内の堅牢(けんろう)な梁(はり)や柱から当時の喧騒(けんそう)が聞こえてくるようだ。
 噂の羊羹は半透明に光を放つ白と紅。しっとり品のよい甘みと食感に舌も心もとろけそう。岡山県の備中高梁(びっちゅうたかはし)産の白小豆をはじめ材料、仕入先、製法すべてが創業時と変わらないと聞かされ驚いた。量産や多店舗化もこの店では無用なこと。ただひたすらに手作りで味を追求し続ける。出雲大社や出雲教の御紋菓(ごもんか)を手掛け続けるのも信頼の証だ。
 観光土産の代表格となっているのは「雲太(うんた)」と命名された最中(もなか)。包み紙を開けた瞬間に立ち上る芳しい(かぐわしい)香りと皮に刻まれた3つの不思議な輪に心が騒ぐ。菓銘の「雲太」は、平安時代の書物の中で、出雲大社が当時、一番大きな建物であったことを示している言葉で、3つの輪は出雲大社で発掘された3本柱の断面をイメージしたものだそうだ。サックリ、芳しい皮の中には隙間(すきま)なく粒餡(つぶあん)が詰められ、控えめな甘味と凝縮された餡のうまみがポッと口の中に広がった。
 同じ頃、来店した男性客がたっぷり小豆をまとった小倉を注文。「この季節になると、松江に住む姉が首を長くして待っとおますけん」と浮かべる笑みのなんと幸せそうなことだろう。同じ気分を味わいたくて、あの人この人、大切な顔を浮かべながらお土産選びを楽しんだ。