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一つことに専念したそば屋の歴史

ひとつことにせんねんしたそばやのれきし 

食べる出雲エリア平成時代

 旧JR大社駅の真ん前にある「手打ちそば本家大梶」は、地元の人々に愛される出雲そばの店である。この大社駅が1912年(明治45年)に開業したころに創業したらしい。しかし、当初は大梶旅館としてのスタートだった。出雲そば屋となるのは昭和28年である。


店に入ると、NHKの朝ドラマ「だんだん」で見たような「出雲そば屋」という雰囲気というより、どちらかと言えば定食屋のような感じであって、地元の人たちに良く利用されている様子である。私が店に入った昼時は6人ほどの先客があって、帰る頃にはもう9人も増えて満席となっていた。
 店主のお薦めは、割子(わりご)と呼ばれる出雲そば独特のものである。丸く平たい椀が3段重ねになって薬味と共に運ばれてくる。割子はこの1段を1枚と呼び、普通は3枚セットである。器は今では、丸く平たい割子になっているが、昔は楕円形の時もあり、さらに遡ると長四角の形の時もあった、それが変遷を重ねて丸くなったのであるが、洗いやすいとか2段、3段と重ねやすいとか理由があるそうだ。
 さて、薬味はネギとモミジおろし、海苔である。これを割子そばに載せて、そこに、そばつゆをかけて食べるのである。また、そば湯も付いて出されている。この時、いろいろな間違いが起こると言う。日本全国見ても、そばにつゆを掛けて食べる習慣はあまりなく、つゆに浸けて食べるのが普通なのだろうか、割子のそばを、そば湯に浸ける人がいるのだそうだ。出雲人には、にわかには信じがたいが本当にあるという。
 また、大梶などの大社町にあるそば屋の出汁の中心を占めるのは、境港産のドウメイワシだそうだ。鰹だしや昆布だしで辛口の松江のそば屋と比較すると甘口である。大梶は薄甘口であろう。さあその出汁は、丸い割子の上から「の」の字を書くように掛けるのであるが、この量が関東の人はつい「ドバドバ」と大量に注いでしまうとかもあるらしい。店によって出汁の味の濃さは異なるので、初めての店なら少しずつ「の」の字に掛けて、味わって確かめて足りなければ再度「の」の字を書くと良いだろう。
 こうした割子のそばはお通夜に食べる習慣があり、大梶では自転車で配達する時代からお通夜に出前していた。その数は多い時は割子200枚にもなり何往復もしたそうだ。大梶の先代の格言は「一つのことができんのに、2つ、3つやるな」と。それを守ってメニューの品は割子と釜揚げ、とろろそばなど5種類ほどで少数精鋭である。そばアレルギーやそばの苦手な人のために、うどんやオムライス、カレーなども少しある。
 出雲そばのもう一つの勇に釜揚げがある。釜揚げは、釜の中で茹で上がったそばと釜湯とを一緒に器に盛り入れたもの。湯気になって立ち上るそばの香りを存分に楽しめる。このドロッとした汁のとろみは、そばを茹でた汁であり、釜に残ったそばの麺が溶けたり、そば打ちのときに何度も振りかける振り粉(そばの実を挽いた時の最初の粉)が汁に溶け出したものである。このとろみの加減と出汁の味付けのバランスに気を配っている大梶では、割子と釜揚げの出汁は、異なる味に調整してあるということである。この出汁はお店を切り盛りする奥さんが先代から受け継いだ秘伝となっている。出汁に使う醤油は、町内の醤油屋さんのもの。ここまでは言っても良いとのことだった。

営業時間:10時〜18時、定休日:木曜日、駐車場6台
住所:出雲市大社町北荒木451-4 電話:0853-53-2867




基本はかまあげの月見そば600円

月見そば

割子でも豪華な3色割子そば800円

3色割子そば

そばを湯がいた時に生まれる「そば湯」

そば湯

そばの配達に使うおか持ちと出汁入れ

おか持ち