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そばを打つ手から生まれるカツ丼の味わい

そばをうつてからうまれるかつどんのあじわい 

食べる出雲エリア平成時代

 出雲そばのお店にもそば以外のメニューはある。多くの観光客が見向きもしないそれらのメニューだが、実は地元の人達にはよく知られていた。
 そばの出汁を使う様々なメニューは地元で働く人達のお腹と心を満腹にしている。その代表格である丼ものに注目してみた。


 大鳥居の五叉路から西側の道路へ目をやると200メートル先の左手に「手打ちそば大正庵」と大きく書かれた建物が見える。お店に入ると、カウンターとテーブル席、お座敷がバランス良く配置されている。「ご注文は?」の声に「カツ丼」と応えると、お店の人は一瞬戸惑いを見せながらも応じてくれた。
 その後直ぐに、厨房からカツを揚げる「ジュー」という音が鳴り響く。厨房を覗くと、手際良く丼鍋をゆする料理人の片手には出雲そばの出汁入れが持たれている。刻んだネギがそば出汁によってしんなりと軽く煮立てられる。そこへ適度に解かれた卵が丁寧に数度に渡って流し込まれる。揚ったカツはこれまた手際良くカットされご飯の盛られた丼に載せられる。その上から丼鍋で程よく温まった卵が更に整えられ、カツの上に被せられていく。
 箸を入れると、出汁とご飯の蒸気で程よく熱々のカツが姿を見せる。サクサク感を残しつつも、ふんわりとした卵と出汁の染み込んだカツは噛み締める度に濃厚な旨味として口の中に広がっていく。改めて思った。「そば屋のカツ丼」は美味しい。

 「卵は硬くなるとおいしくないですからね」と料理人。卵をふんわりとさせるには丼鍋の中で均等になるよう数度に分けて流すのがコツだとか。
 料理人の名前は春日央充さん。大正庵の二代目だ。春日さんは大阪の調理師専門学校を出た後、島根を中心に展開する旅館飲食店グループで10年以上勤務した。そこで学んだのは様々な料理の技術はもちろんだが、何よりも“キチンとした仕事”だった。料理人達にとって丼ものは初歩的なもの。それだけにその仕事ぶりがはっきりと出てしまうものでもあるという。
 丼ものの多くはそば屋さんなどがそれぞれのお店独自のそば出汁を使う事で、各自のオリジナルの味が出てくる。大正庵では鰹出汁ではなく、煮干しを使う事で味にまろやかさを出している。更に、カツをあえて煮込まず、カツのサクサク感を残すのも特徴的である。

 修行半ばではあったが、創業店主であり父親の春日明さんを手伝うために実家であるお店に帰った春日さん。料理は一通り出来るはずだったが、そば打ちは別だった。「最初は作っては捨て作っては捨ての毎日でした」と当時を振り返る。特に麺の切り方によって茹でた時の感触が変わることもあり、一番苦労したところだった。そして、何よりもこだわるのが出汁。味に厳しい環境にいたこともあり、出汁については特に気を使う。
 お店のメニューは割り子そばの他はたまご丼とカツ丼。そして最近やりはじめた“焼豚ちまき”も「そばだけだともう一つ足らない」という人達に人気の一品だ。「色々とやりたい事はたくさんあるけど、今はお客さんに美味しいそばを食べてもらう事を第一に考えています」と春日さん。
 大正庵は大社のそば屋としては珍しく深夜23時まで営業している。夜はお酒に合う一品料理も出す。「そば屋が早く閉まる街」と一部で囁かれていることもあり、近くに宿泊する場合は利用したい。
 春日さんは最後にこう言って私を見送った。「次はそばを食べに来てくださいね。」

《大正庵》
11:00〜23:00
大社町の神門通りの大鳥居の五叉路から西へ200メートル。店の前に駐車場あり。
電話:0853−53−2454
定休日:不定休




大正庵のカツ丼

大正庵のカツ丼

卵後載せなのでカツのサクサク感が嬉しい

卵後載せなのでカツのサクサク感が嬉しい

お店の壁面に書かれた「大正庵」の文字が大きな目印

お店の壁面に書かれた「大正庵」の文字が大

大社のそば屋としては珍しく夜まで営業している

大社のそば屋としては珍しく夜まで営業して