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蕎麦は三たて肴は美味し

そばはさんたてさかなはうまし 

食べる出雲エリア平成時代

 出雲縁結び空港に客人を迎え「まずは出雲大社へ」と車を走らす。客人は十中八九「いずもそば」を御所望なさる。お口に合わぬ物を提供しては「出雲路」の始まりからつまずくこと必至ゆえ、客人が「出雲そば」への傾倒を如何ほどお持ちか気になるところ。幾度か経験値を積み重ねるうち巡り会ったのが此処「そば処神門(ごうど)」。他人様をご案内ばかりじゃ不満が残ると本日はここでじっくり腰を据えレベルアップと決め込む。


 外光を採り入れた大きめの窓。木造(きづくり)のテーブルや椅子。カウンターの上の棚に飾ってある骨董物の「蕎麦猪口」はしかしその古さを感じさせない。平成13年創業は、出雲大社参道に並ぶ老舗とはそれらと一線を画す狙いととれる。店主神門恵(ごうどさとし)さんは、蕎麦屋を始めるまでは公務員で「蕎麦打ち好き」が高じて店を始めたとのたまうが…ここで蕎麦を食せば解ることゆえ出自は控え、庭の見える座敷へ上がる。
 酒は出雲の銘蔵旭酒造の「十旭(じゅうじあさひ)」上撰を冷やで戴く。肴はとお品書きに目をやれば好物の「だし巻き卵」に目がいく。「お料理は息子が板場をしています」と女将良江さんが目の前に運んで来たのは、大きめのだし巻き卵」「そば豆腐」「そばの芽サラダ」。食の作法を無視して「おいでおいで」しているだし巻き卵に箸を延ばすといやはや。卵焼きの領域を超えた肌つや食感。ましてそば用の出汁がじわっと卵と味を競い合う逸品。酒で一口ごとに喉を洗い新たな味覚を楽しめる。寿司屋、蕎麦屋の定番をここまで上品に仕上げた料理人の腕にいきなりシャッポを脱がざるを得ぬは失態か。
「そばの芽サラダ」は新鮮で、ドレッシングがこれまたいい。幼葉の緑、茎の白と赤紫のコンビネーションは目も楽しませてくれる。「そば豆腐」の上に添えられた「三つ葉」の葉はスイーツに飾られたミントを思わせ、味もさることながら客を楽しませる心得が料理に行き届いている感がする。ふとこのセンスは女将と板場の息子(靖朗)さんとの合作か?などと思いを馳せる。次に出てきた「天麩羅盛り」も、見た目鮮やか口に入れてもからっと揚がり専門店のような仕上がり。海老がまっすぐ他の素材を支えて力強ささえ感じる。「麦とろご飯」に至ってはすでに酒をあきらめがつがつと流し込む醜態。これでは本命の蕎麦に届かぬとご心配の御仁もあろうが、そこはそれ、蕎麦喰いの卑しさ。蕎麦は別腹と決め込んで、割子を所望。
 店主が修行した群馬からトラックで運んだという石臼で国産の玄そばを自ら製粉は「挽きたて」「打ちたて」「茹でたて」の三たてにこだわる証。淡い緑色した麺は甘皮の色で、そば殻を僅かしか入れ込まぬ手法。これも店主のこだわりと観る。箸を使えば、細めの麺が逃げもせずしっかりとしたコシが手元で解る。顔をよせればプンと蕎麦そのものの香り。出し汁と言えば鰹の香りがほのかに引き立って落語「時そば」の名調子「おやじ、鰹をおごったな」が口に出そう。成る程此処の料理のベースはこれかと得心。薬味は白ネギ、紅葉おろしと定石ながら、海苔は「平田の岩のり」でこれまた江戸前と出雲のコラボレーション。あっという間に三枚(一人前)を平らげた。
「おそば屋は毎日続ける力が要」と店主の言は、女将とDNAを受け継いだ息子さんとのタッグマッチ。常連客はそれを味わいに来ているに相違あるまい。
 送り出されて、「満腹」「満足」「納得」を復唱する車の助手席からはライトアップされた出雲ドームが穏やかに浮かんで見えた。


住所  出雲市常松町378
電話  0853−24−6200
営業  11:30〜15:00
    17:00〜21:00
   (そばが売り切れ次第閉店)
休日  月曜日(祝日の場合は翌日)
座席  50席
駐車場 20台




卵7個を使った出汁巻き卵

大きな絶品のだし巻き

ピンクの茎のそばの芽サラダ

ピンクの茎のそばの芽サラダ

麦御飯にとろろをかける

とろろかけ麦御飯

そばを挽く愛用の石臼

そばを挽く愛用の石臼