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隠れ家のような異空間でいたい

かくれがのようないくうかんでいたい 

食べる出雲エリア平成時代

 出雲市の塩冶(えんや)小学校の近く、今は住宅地となっているが、昔この周りは田んぼだったところだから、こんもりとした防風林があって、その内側に大きなクスの木を傘にした白壁の大きな蔵がある。そんなところに隠れ家のような「蔵カフェおもひで屋」はあって、1階はカフェ。2階はアトリエ兼ギャラリーとなっている。


 中に入ると空中にドーンと横に渡した大木が眼に飛び込んで来る。これは桁と呼ばれる構造材だが、さらに仰ぎ見ると屋根を支える棟木がもっと太い。なんとこの豪快な二本の大木を横たえる空間の下に蔵カフェは広がっている。この桁と棟木を支え、さらに屋根全体を天幕のように持ち上げているのは、一辺が40センチもある大黒柱である。蔵は100年ほど前に修理した記録があるだけで、それ以前は不明という。だから100年以上は経つということだ。
 家具は洋風にしつらえられていて、テーブルの料理に目が行っている間は、蔵の中にいるとは感じない。時々目を上げるとそのグーンと曲った桁の大木がアントニオ・ガウディの建物を連想させ、今どこに居るのか分からなくなる。
料理に目をやると、旬のアサリをふんだんに使い海の香りのするボンゴレが、大きな曲線で構成される白いプレートにサラダと一緒に盛りつけられている。この日はキャロットスープ。そしてデザートとコーヒーが付いたこのパスタセット(1300円)が人気だ。セットには他に牛ヒレ丼セットと特製カレーセットがあり、もちろん単品もある。テーブルの上には、着物の帯地を使った洋風のアクセントが置かれている。
牛ヒレ丼セットには80歳を超える方々の常連さんが居るそうで、「長生きの秘訣かもしれないですね」と語るのはオーナーの阿部早苗さん。彼女は使われなくなった着物を現代のイメージでリメークして洋服に再生するクリエーター。絹の命は100年とされ、いわば人の寿命とつながる部分があり、それに命を吹き込んで再生することにこだわり続けて来た。その延長線上に、この蔵の再生があったという。奇しくも蔵も100年以上の歴史を持ち、この蔵で行うリメークの仕事は、やってみたらとても居心地が良いとのことである。その阿部さんの手でリメークされ、今は洋服となった着物がところ狭しと立ち並んでいる2階に、下のカフェから、真空管アンプが紡ぎだすジャズの音楽が吹き抜けを通って漂ってくる。今後は、この隠れ家的な異空間を生かして、定期的なコンサートを開きたいそうだ。また、蔵の外にはクロモジの苗木などを植えたので、将来はもっと森の中にいるような感じになるのを楽しみにしているという。再生は、生まれ変わるとともに、再び生きることなのだと感じた。




大木が横たわる店内空間

大木が横たわる店内空間

コーヒーの付くパスタセット

コーヒーの付くパスタセット

リメークされた着物がずらりと並ぶギャラリー

リメークされた着物が並ぶギャラリー

ギャラリーはリメークの仕事場にもなっている

ギャラリーにはアンティークな雰囲気が漂う