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お帰りなさいふる里へ

おかえりなさいふるさとへ 

食べる体験する出雲エリア平成時代

 出雲縁結び空港から車で3分は確かに出雲路の玄関。キャッチコピーの「お帰りなさいふる里へ」はその交通の便からと思いきや、二百余年の歴史を持つ古屋敷のたたずまいはまさに「ふる里」の感あり。落ち着いた店内も旅の疲れを癒(いや)すこと請け合いの懐古情緒満点。敷地内には製麺所、土産物、そば打ち道場などもあり五感で楽しめる設備。まるで「蕎麦のテーマパーク」?


 「たまき」といえば元来歴史あるうどん屋。三代目に当たる玉木顯(けん)さん(現会長)が、平成になって、かつて評判だった祖母のツルばぁさん(九十五歳で没)の出汁を復刻し、無添加にこだわり「鶴華(つるが)流出雲そば」を輩出したと聞く。季節折々の食材を練り込んだ蕎麦は会長のアイディア。感服ばかりしては居られぬ、こちらの目的は蕎麦と酒。マネージメント(店舗)担当の息子 玉木暢(とおる)さんが付きっきりでの対応は、いやはや恐れ入る。本日の酒は地元出雲今市(いずもいまいち)「富士酒造」の「出雲富士」上撰。癖がなく料理や蕎麦を楽しむにはもってこいの酒。南部鉄製のお銚子は燗酒が冷めぬようとの心配り。有田焼のお猪口(ちょこ)で戴き酒は満足。
 予約なしのお勧め料理をと尋ねれば「そばづくし」と暢さん。親子の自慢のメニューとくれば期待が膨らむ。運ばれてきたのは蕎麦寿司、「かえし」で煮込んだ豚の角煮、そばがきに蕎麦サラダ。先ずは酒のあてにと、小振りな蕎麦寿司(細巻き風)を口にして驚いた。ほのかな酸味(酢)が爽やかに蕎麦の香りと和合し、ついもう一口と味を確認。そばがきは素朴で柔らかく、サラダにのった揚げ蕎麦も程良い。バラエティに富んだ食感をしばし楽しむ。
 「二の膳でございます」。続いて運ばれてきたのは天麩羅、茶碗蒸し、割子そばにお吸い物。いやはや酒をおかわりせねばと、またおねだりには訳がある。会席風の「そばづくし」お代を知りたくなったせいで、お品書きを盗み見る。なんと、これだけの品数で二千円はちとサービスし過ぎ。それにしても天麩羅の器に盛られているのは、定番の海老(赤)、たらの芽(緑)、赤梅(ピンク)、そばがきには海苔が巻いてあり茶と黒のコンビネーション。奥出雲産の舞茸も入って超豪華。ただ、そこまでひたすら食べ続けると蕎麦まで行き着かぬと気を取り直し、割子に目をやれば、薬味器の下は二段(普通一人前三段)で、腹加減まで配慮してある。
 蕎麦は挽きぐるみの塩梅よろしく容姿端麗(ようしたんれい)香りも良し。出汁は松江市石橋町の老舗カネモリ醤油(森山勇助商店)謹製「木桶醤油(きおけしょうゆ)」をベースに、初代より引き継がれた仕込みで申し分ない。無添加を唱うだけあって素材の風味が伝わってくる。これが「おかえりなさいふる里へ」なのだろう、格子の向こうでツルばぁさんがほほえんでいるのが見えた気がする。満腹になって酔いも回り、一息つくと茶碗蒸しが残っている。残すのも無礼と蓋を取れば、何か茶色い物が振りかけてある。構わず食すと蕎麦の香りは蕎麦の実を挽いたもの。あっさりと香ばしく始めていただく品に思わず礼儀わきまえず「こりゃいい」。
 古き良き物に斬新なアイデァを混ぜ込み、訪れる者を喜ばせる経営方針は末代まで続く、そんな土産まで貰った気がする。


鶴華 波積屋(つるが はづみや)
住所  出雲市斐川町沖洲1630
電話  0853−72−0770
営業  11時〜20時
休日  無休
座席  80席
駐車場 40台




そばづくしの一の膳

そばづくしの一の膳

海苔を巻いたそばがきの天ぷら

海苔を巻いたそばがきの天ぷら

割り子そば

割り子そば

茶碗蒸しの上は蕎麦の実を挽いたもの

茶碗蒸しの上は蕎麦の実を挽いたもの