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光り飛びちる神さま誕生の瞬間

ひかりとびちるかみさまたんじょうのしゅんかん 

見る知る松江エリア平成時代

暗い大きな洞穴をゆっくりと船が進む。すると右手上の方に白木の鳥居が見えた。ここが、この洞窟を生み出した金色に輝く弓矢の伝承とともに、佐太神社に祀られる佐太大神(さたのおおかみ)が生まれたところと伝わる。ここへやって来るには、松江市島根町の加賀の港から船が必要となる。


数組の家族連れが船の乗船場で小アジ釣りをしている。青い海から2、3匹が一緒に連なって目の前の釣り針の先でピチピチと踊る。その光のキラメキの向こうに、黒い岩肌に緑の衣を掛けた加賀の潜戸(かかのくけど)が見えている。
エンジンの音がして、約30人ほどが乗れる潜戸観光遊覧船が岸壁に横付けしており、船内へ足を踏み入れると身体が揺られて、海の上に居ることを感じる。
ここから船は潜戸に向って進み始めるが、最初に着くのは旧潜戸とよばれる場所で、陽の光に白く輝く岸壁に船が着くと、そこから天然のトンネルが作られていて、中にはところどころに光が照らされたお地蔵さんが祀られている。船の同乗者が居なければ寂しい場所である。そこを100メートルほど進むと、高さが10メートル以上はある大きな洞穴の中に出る。辺りを見回すと地面には石が積まれた塔が立ち、その間にお地蔵さんがあったり、数えきれないほどの玩具やぬいぐるみ、ランドセルなどが供えられている。ここは、古来より幼いままで生命絶えた我が子を供養するために、小さい石の塔を積んだ場所とされ、一方親に先立って亡くなった子どもがここで石を積むという「賽(さい)の河原」の伝説もある。子どもを亡くした夫婦が良く訪れる場所と聞いた。手を合わせて、トンネルを引き返し再度船に乗り込む。
船が岬の突端の方へ向かって走り出すと、先ほどの洞穴が見上げるほどの断崖に大きく暗い口を開けている。青い海に船は白い波を蹴立ててしばらく進むと、新潜戸に到着する。船から手を出さないようにと注意のアナウンスが流れる。行く手を見ると、乗っている船の幅と同じくらいの大きさしかない洞窟の入り口が見える。洞窟の奥は、また向こうの海に開いて、明るい景色が見える。船は岩肌に当たることも無く、スーッと吸いこまれるように中に入った。天井が高い。30メートルはあるだろうか。外光と水面の反射光で広々とした灰色の岩の天井が見渡せる。出口の景色もはっきりとして、島が一つ見える。
ここに昔は社があったのですが、右の方に今は鳥居が見えます。と案内が流れる。船から5メートルぐらいの高みに、船を見下ろすかのように木製の鳥居が薄明かりに照らされて浮かび上がっている。
この鳥居を過ぎると右手からも大きな光の束が差し込んで来る。この洞窟は、入って来た船の幅ほどの小さな穴が西側、遠くに一つの島が見える大きく開いた東側の穴、その東西がおよそ200メートルあり、その途中で北に向っても大きな穴が開いている。北側からの日本海の波は強く船を揺らした。この3つの穴のある広々とした洞窟を進む。水は薄明かりで照らされて淡いブルーである。水底までは波で、はっきりと見ることはできなかった。
大きな東の口を出るとき、天井から水が滴り落ちてくる。この水滴は母乳の出を良くするという云われがあって、器や手で受けて口にする女性もあるそうだ。神様の出生地ならではの光景である。
そこから、向こうに見える島は的島(まとじま)と呼ばれ、勢いの良い金の弓矢が大きな洞窟を穿ってなお、飛び去って的島にも当たって穴を開けたと伝わるのである。
『出雲国風土記』には、佐太大神が生まれようとするときに、弓矢がなくなったことから、母神のキサカイヒメは「これから生まれる子が麻須羅神(ますらがみ)の子であれば、なくなった弓矢よ出て来なさい。」と祈願した。すると重要な部分が角(つの)で作られた矢が流れ着いた。それを手に取って「これではない。」と言って投げ捨てると、今度は金の弓矢が流れ着いた。それを手にして「暗い岩屋だこと。」と金の弓矢で岩壁を射通された。とあり、この新潜戸の成り立ちを記している。
ここで登場した母神キサカイヒメは、古事記ではオオクニヌシが兄弟の八十神によって真っ赤に焼けた大岩をイノシシと言われて抱きとめて焼け死んだ時に現れて、自らの赤貝の殻の粉を使ってオオクニヌシを生き返らせた二柱の女神の一人。キサカイは赤貝のこと。
船は岩屋の周りを巡って港に向う、生まれた佐太大神が先の的島で弓の稽古をしたとか、乗馬の練習をした場所、さらには高天原と呼ばれる岩場まであって、長い年月の間に人々の逞しいイマジネーションが厚く堆積して青い海にキラキラと光っている。


一般社団法人 加賀潜戸遊覧船
住所:松江市島根町加賀6120-14
電話:0852-85-9111 FAX:0852-85-3800




マリンハウス加賀からの加賀湾の眺め、遠くの半島の岬に加賀潜戸がある

マリンハウス加賀から加賀湾を望む

旧潜戸にある賽ノ河原

仏の潜戸とも呼ばれる旧潜戸

遠くに見える的島まで一直線でつながる

金色に輝くの矢が貫いた新潜戸

青い文字で彫られた潜戸大神宮

加賀神社に掲げられた潜戸大神宮