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八重垣伝承の伏線〜ヤマタノオロチ退治とスサノヲノミコト〜

やえがきでんしょうのふくせん〜やまたのおろちたいじとすさのをのみこと〜 

見る知る松江エリア不明

「八雲立つ出雲八重垣妻込みに云々」で始まるスサノヲノミコトとクシナダヒメのロマンチックな「八重垣伝承」とその舞台となる「八重垣神社」。有名なヤマタノオロチ(大蛇)退治を前譚とする影響からか、ヒーロー然としたスタンスで語られることの多いスサノヲノミコトであるが、果たしてこのパーソナリティは正しいのであろうか?じつはこの御神さま、勇敢なイメージとは裏腹に、大蛇退治以前の悪辣ぶりがなかなか興味深いのだ。


神話の地を訪ねる第1回目は「八重垣神社」(松江市佐草(さくさ)町)。八重垣神社と云えば、出雲地方の“縁結び”のアイコンたる存在のひとつである。この八重垣神社の縁結びスポットとしての人気は、平日の女性参拝者の多さからもうかがえるのだが、その由来となるエピソードも、「ヤマタノオロチ(大蛇)退治」で有名なスサノヲノミコトとその奥方であるクシナダヒメ(稲田姫)が主役というから物語の素地としても盤石なわけである。
8人もの娘をことごとく大蛇に食べられてしまった出雲の肥河(ヒノカワ)の国神夫婦(アシナヅチ、テナヅチ)が、最後に残った末娘(クシナダヒメ)までもが、すわ餌食か!という場面に、颯爽と参上したスサノヲノミコトが、クシナダヒメを助けるという大蛇退治の神話。大蛇を退治したスサノヲノミコトが、それを縁に結婚したクシナダヒメとともに新居を構えたとされるのが、この八重垣神社であるとされる。
本懐である「八雲立つ出雲八重垣妻込みに八重垣造る其の八重垣を」に連なる有名な部分の紹介は他サイトに譲るとして、ここでは、八重垣伝承の伏線となった、ヤマタノオロチ退治とスサノヲノミコトにスポットをあててみたい。

この、英雄が現れて窮地に立たされたお姫様を救うというヒロイックなストーリー展開は、まさに現世まで連綿と続くヒーロー活劇のひな形とも云うべきもので、あまつさえ盗賊や悪漢の類を敵役に置かず、ヤマタノオロチという怪物を配したプロットは、その後、ゴジラやウルトラマンに代表される、日本特有の特撮系コンテンツの源流になったのではないか。神話からスピンアウトしたヤマタノオロチが、マンガやアニメを舞台に暴れ回るシーンを目にするたびに、そんな思いが過ぎる。ちなみに、講談社漫画賞も受賞した永井豪の名作「凄ノ王(スサノオウ)」では、スサノヲノミコトを始め、神話の数かずが大胆に引用されているので、興味のある方は一読をおすすめする。高天の原(タカマノハラ)をアトランティスに見立てるなど、永井豪らしいなかなかの荒唐無稽ぶりだが、こういうアプローチで神話に興味を持つということも往々にしてあるので、侮れないのではないだろうか。

そんな感じでこのお話を見ると、英雄譚のプロトタイプとしての人物像が浮かび上がるが、実はそうでもなく、なかなか重層的なキャラクターとしての履歴を持つのがスサノヲノミコトの面白いところだ。

出雲の肥河に降り立つ理由からして、一説には父であるイザナギが任せた仕事を嫌がり、母イザナミの所へ行くといってダダをこねた挙げ句、母の元に旅立つ前、姉である天照大神(アマテラスオオミカミ)の住む高天の原に挨拶に寄った際に、天照大神を天の岩屋に隠れさせる程の大罪を犯し、それを理由に天を追放され降り立ったのが、この出雲だったというのだ。

もう無茶苦茶である。というか、ダダをこねるは罪は犯すは、まるで子供のようである。こんな幼児性を含んだ人物が、何故に出雲の国では勇敢なたたずまいを見せたのか、じつに不思議である。この幼児性を念頭に考えてみると、おそらくはクシナダヒメがかなりの美人で一目惚れしたのではないか、という想像に私は行き着く。気に入ったものをすべて欲しがるのが子供というもの。このお話も捉え方によっては、大蛇退治の褒美として、クシナダヒメを娶らせることをアシナヅチとテナヅチに前約束させているようにも読めてしまう気がしないでもない、と私は思う。
とまあ、このような打算?があったとはいえ、みなさんもご存じの通り、ボスキャラ(大蛇)相手の知略に富んだ獅子奮迅の戦いぶりは、それまでの子供じみた振る舞いからは予想もできない大人なキャラクターに成長している。
大蛇を退治したのち、「八雲立つ出雲八重垣妻込みに云々…」と詠むさまは、まさに英雄譚の大団円にふさわしい。
極めてロマンチックな八重垣伝承も、男の子的観点で論ずれば、このような切り口も有効?となるのも、神話の懐深さではないだろうか。




撮影日は残念ながら悪天候だったが、それでも女性参拝者の多さが目立つ。巫女さんも大忙しだ。

八重垣神社

拝殿左にある「山神神社」も、現在はすっかり整頓され、女性がたたずんでも違和感がない。

境内の山神神社

神社奥にある「鏡の池」はご存じの通りで超人気なスポット。

鏡の池

鏡の池奥にはクシナダヒメが祭神の「天鏡神社」がある。ぜひこの神社にも参って恋愛力をアップされたし。

天鏡神社