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天下の奇勝に恋物語

てんかのきしょうにこいものがたり 

見る知る奥出雲エリア平成時代

 鬼の舌震(したぶるい)。なんとも怖そうな名前であるが、それもそのはず、奥出雲町の斐伊川の支流である大馬木川(おおまきがわ)に展開する奇岩、断崖で埋め尽くされた天下の奇勝であり、名勝地である。紅葉や新緑の景勝地として、老若男女の訪れ、国の名勝・天然記念物と散策ガイドマップにある。3カ所の駐車場があり、その一番川下にある宇根駐車場から鬼の舌震 に向かうと、長い吊り橋に出た。


 恋の吊り橋である。説明文にこうある。「神話の昔、玉日女命(たまひめのみこと)という美しいお姫様が住んでおり、誰からも慕われていたことから、この辺りは「戀山(したいやま)」と呼ばれていました。」
 長さ160メートルの大きな吊り橋である。45メートルほど下には、大馬木川がゆったりと流れている。この川上で、美しい 玉日女を恋い慕った日本海の和仁(ワニ:サメの古名)が、夜な夜な泳ぎ上がって来たという。しかし、それを嫌った玉日女は、巨岩をもって川をせき止めてワニを拒んだ。こうして会う事ができないとなったワニは、ますます玉日女を慕ったということである。このお話に少し誇張はあるが、『出雲国風土記』に古老曰くと記された戀山の地名由来である。
 そしてワニが慕うと巨岩の堰に怖れ驚いたワニが舌を震わせた
ことなどから訛って「鬼の舌震」となったのだと伝わっている。そのような場所であるから、約1.6キロメートルの奇岩景勝の中には玉日女とワニちなむものがいくつかある。雨壷(あまつぼ)は大きな岩の中に大きな円いくぼみがある巨石群となっており、別名「姫の湯殿」と呼ばれる。こうした穴を甌穴(おうけつ)というが、川の流れが小石を動かして、その動き回る小石が石穴を削ってできるものという。そして、同様の甌穴が2つ並んだ鬼の落涙岩(らくるいいわ)は、姫を慕って叶わなかったワニ(鬼)の涙だそうだ。そして鬼の試刀岩(しとういわ)がある。これは鬼が刀の試し切りをしたと言われている。この鬼の舌震は玄武岩が形成しており、大岩の節理からパカッと割れる特質があるので、鬼の試刀岩はまさにその典型である。30あまりの奇岩で形づくられた雄大な奇勝は、高い断崖から大岩がスパッと切り離されて、谷に落ち、急流で丸みをおびたものだと考えられている。
 では、玉日女はどこに居たのか・・・という疑問が湧いて来る。この鬼の舌震にも玉日女神社があるが、それは後世のものらしい。そこで地元の資料を探索してみると、あった!この鬼の舌震の大馬木川を約10キロメートル上流にさかのぼった大馬木上連(じょうれん)地区。場所は人家の裏になり、県道25号線の道路の横の田んぼの脇を山の方へ歩を進めると、わずか40メートルほどで大きな楓の木の下に小さな社がある。これが玉日女を祀ると伝わる大歳神社である。
 この他に奥出雲町上阿井に、オオクニヌシと玉日女を祀る大原神社があるが、ここの玉日女は江戸時代に遷座したものと考えられ、さらに大原神社そのものが何度も場所を変えている事から。オオクニヌシと玉日女の関係は定かなものではないようだ。なお、出雲国風土記に記載されている大原神社は、今の尾原ダムの近くの岩壺神社とする説があり、境内にはオロチの尾が祀られる尾呂地神社も鎮座している。現在の岩壺神社も尾原ダム建設でこの地に遷ってきたものである。いろいろな理由で神々を祀る所在は変っていくものなのだと実感する。

大歳神社:奥出雲町大馬木上連(緯度・経度:35.097468,133.055748)
岩壺神社:雲南市木次町平田340(緯度・経度:35.219924, 132.950874)
※上記の緯度経度をマップ検索にご利用ください。 




奇岩、大岩がゴロゴロと転がり谷を埋め尽くす驚きの景観

30余りの奇岩に名前がある

二つの穴が鬼の両眼、流れ落ちる水が涙と言われる

鬼の落涙岩(らくるいいわ)

玉日女(たまひめ)の湯殿(ゆどの)とも言われる雨壺(あまつぼ)

小石が大岩を円く削った雨壺

鬼の舌震の上流にある大馬木地区の玉日女(たまひめ)を祀る大歳神社

玉日女(たまひめ)を祀る大歳神社