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オオクニヌシの琴の音は?

おおくにぬしのことのねは? 

見る知る奥出雲エリア平成時代

 オオクニヌシが琴を弾いたといわれる場所がある。島根県東部の中国山地にある琴引山(ことびきやま)がそれである。『出雲国風土記』に、古老の言い伝えとして、「この山の峰に岩屋があり、その中に、オオクニヌシの御琴(みこと)がある。長さ七尺(約2m)・広さ三尺(約89cm)・厚さ一尺五寸(約45cm)である。


 また、石神があって、高さ二丈(約5.9m)・周りが四丈(約11.9m)。そこでこの山を琴引山という」とある。
 では、紅葉の琴引山に上がってみるとしよう。この山にはいくつかの登山ルートがある。琴引フォレストパークスキー場から登り、途中で大神岩を通るルート、また島根県民の森から登る「和恵ルート」、途中で琴の岩屋を通る敷波(しゅくなみ)ルートなどがある。
 今回は、中でも山道の分かりやすいスキー場ルートで登ってみる事に。琴引フォレストパークに車を止めて、スキー場内図の大看板を見ると、左から3つのリフトがあり、一番左に描かれた第一リフトの下を登って行く。残念ながらシーズン以外はリフトは動いてない。リフトが終わってもそのまま50メートルほど登ると左手に琴引山登山道の看板がある。ここからは天気がよければ木漏れ日の山道となる。山頂までおよそ1500メートルである。最初のうちは谷川沿いに登って行き十畳岩とか弦の清水などがあり、あと800メートルの標識を超え、もうそろそろ頂上ではないかと思える頃に、上方に大きな岩が見える。これが大神岩である。山頂からゴロゴロと転がり落ちて来て積み重なったような大岩で、その隙間が洞窟のようになっている。オオクニヌシの琴はこの大神岩の中にあったという説もあるので、ちょっと中を覗いて見ると良いだろう。
 ここから登ってすぐの場所で見上げると二つ目の大岩が見えるのだが、その大岩がえぐり取られた奥に琴弾山神社が鎮座している。主祭神はオオクニヌシとイザナキである。参拝を済ませたら、社の左横をすり抜けて後ろに回り込み、そこからさらに進むと50メートルほどで琴引山山頂に出る。山頂には、人の手で積まれた石が天に向かって伸び、ケルンの頂を作っている。ここからは、四方の山々をぐるりと見渡せて、西の方角には、「国引き神話」にも登場する三瓶山の美しい姿を望むことができる。
 さて、琴があったと云われるもう一つの場所が、琴の岩屋である。ここに行くには、琴引山神社から20メートルほど下って、大神岩の方向に降りないで、麓に向かって左の方向へ進み急な坂を下る必要がある。およそ500メートルほど下って行くと、小さな社の立つ琴の岩屋がある。窮屈な岩の間を入って奥に進むと深い洞穴のようになっている。神々の琴と言うには、出入り口が小さい感じがする。古代はもっと大きな穴だったのかもしれない。
 オオクニヌシと琴との関係は、『古事記』にも示されている。『古事記』には、オオクニヌシがスサノオの住む根の国を尋ねて、試練に会ったときに、スセリヒメを背負い、生太刀、生弓矢と天沼琴(あまのぬまごと)を持ってスサノオの元から逃げるときに、琴が樹に触れて、地動鳴くとある。これは、琴が神の声を聞く祭祀器だからと言われる。琴にはパワーが秘められている。そんな神の器がこのような山奥にあったというのは不思議なことである。
 ここ頓原(とんばら)には琴引山が極めて重要な場所だと言う伝説がある。旧暦10月の出雲の神在月に、神々が出雲大社に参集するのだが、その神々はまず琴引山に参集して、琴引山より流れ出す神戸川(かんどがわ)を下って出雲大社に行くというものだ。神戸川は琴引山から直線で約40キロメートル離れた出雲大社の近くで日本海に注いでいる。そこから日本海を通って神迎え神事の行われる稲佐の浜に到達すると言うのである。また、琴引山に降りたった神々は、オオクニヌシの弾く琴の音で癒されたという伝承もあるのだそうだ。岩屋に反響し琴引山に広がった琴の音はどのような音であったのだろうか。




大きな岩が積み重なったような大神岩

この大神岩の中に琴があったとも伝わる

切り開かれた大きな岩の奥に鎮座する琴弾山神社

山頂近くに鎮座する琴弾山神社

山頂にある石を積み上げたケルン

ケルンの向こうに見えるのが三瓶山

オオクニヌシの琴があったと伝わる琴の岩屋

小さな社の右側に見える穴が琴の岩屋