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樹林が神社だった光る山

じゅりんがじんじゃだったひかるやま 

見る知る松江エリア平成時代

 『出雲国風土記』には、所造天下大神(オオクニヌシ)が宍道郷(松江市宍道町)で猪を追い、二頭の猪と猟犬が石と化した話が載っているが、その御子であるワカフツヌシも猪を追った。場所は宍道郷から宍道湖をはさんだちょうど対岸となる大野郷(松江市大野町及びその周辺)である。そのワカフツヌシノミコトの猪狩りは猪の足跡が忽然と亡失(う)せてしまい、失敗に終わったようである。


 この伝説に大野の地名由来も含まれており、亡失(う)せき、とおっしゃられたので「内野(うちぬ)」という。それが、今の人は誤って大野と呼んでいるだけだ。と出雲国風土記には書かれている。その大野という地名は風土記の時代から変わってない。
 さて、猪狩りの行われた場所はどのあたりかと言えば、安心高野(あしむのたかの)と都勢野(つせの)の間といわれている。この二つの地名に付く「野」とは風土記では樹木のない草山を指しているという。そのような場所であるので、猪の動きが見えたのだと思われ、猪を追う、待ち受ける、見張るなどが組織的に行われたと想像できそうだ。
 さて、 安心高野の付近は肥沃な土地で畑になっていたようだが、その頂上あたり、峰にだけ林があったらしい、そこに神の社があったと風土記は伝えている。つまり、樹林を神社としているのだ。この安心高野は現在の本宮山と言われており、そこにあった神社は風土記にある宇知社(うちのやしろ)であり現在の高野宮(内神社〈松江市大垣町〉)という。その「高野宮社記」によると「安寧天皇の御代と霊亀元年(715年)の二度にわたり、高野山(現在の本宮山)の頂に夜々月輪のごとく光を放つものを見た住民が、四方から集まり、神の降臨と仰いで、神祀(かみまつり)を行った」とあり。なんとも神秘的なことが起こったらしいのである。
 そのような伝承に興味を抱いて、高野宮に行ってみた。農道から高野宮を示す看板従って脇道に入って坂道を車で進むと、樹木がなくなり空が広がって大きな石の鳥居の前に出る。鳥居まで僅かな階段を上って境内に入ると左手に案内板が立ててあった。そこには神秘的な事が起こった霊亀元年(715年)に神垣を祀ったとあり、それから2年後の養老元年(717年)には、神威の強すぎる事を畏れた住民が現在地に遷御(せんぎょ)した、つまりご神体を移したとある。なんだかとても霊験あらたかなところと感じる文面である。伝説では、その遷宮の地は高野山山頂から弓をもって矢を射て、その矢の落ちたところだそうだ。
 その矢によって定められた境内を巡ると、本殿の右手の茂みに「禁足地(いらずの森)」と大きく墨書された板が掲げられ、続けて「文禄二年(西暦1593年)雷禍による本殿火災が発生した時、本殿からこの森に向けて線光が発せられました。人々、これを見て神様が遷られたのに相違ないものと考え、以後この森を神聖な森として人の立入りを禁止した聖地となっております。」と記されていた。
 月輪の光を祀った神社らしい伝説なのだなあ、思いながら振り返ると本殿が聳えていた。この本殿は平成16年(2004年)に島根県指定文化財になっており、高さは約10メートルで床からの高さが高く雄大な雰囲気をたたえており、その床は内内陣、内陣、外陣に区画されて、床の高さが3段になった珍しい造りになってるそうだ。さらに興味深いことに、御祭神が出雲大社と同じく西方を向いている。江戸時代には出雲大社、日御碕神社、佐太神社と共に松江藩の御祈祷四大社の一つになっており、一社一例の社して、出雲大社や佐太大社の支配を受ける事なく、松江藩直轄の別格な神社であったようだ。宍道湖岸の一畑電鉄の高ノ宮駅のすぐそばに、高野宮の大きな鳥居がある。奥出雲や宍道湖の対岸などから、多くの人が船で参拝しその人の列が続いていたことだろう。本宮山の頂上から、晴れていれば眼下の宍道湖はもちろん大山、三瓶山なども一望でき、高ノ宮の駅を通る一畑電鉄も見ることができる。頂上には車で行ける。
 本殿の裏には鳥居のある稲荷神社が数多くの小さな狐の瀬戸物を従えて佇んでいる。本殿の左側に行くと崖になっていて、その下に宮川が流れている。そこで、忌明けの清めを行うそうで、拝殿の左の方に、海藻や潮を汲んだ竹筒やペットボトルが掛けられて、潮汲みの痕跡があった。忌明けに浦の人々は魚瀬の八神神社に潮汲みするようだが、こちらの宍道湖側の方々は日本海で潮を汲んで高野宮神社にお参りするとのことだった。境内をぐるっと巡ったところで、ちょうど宮司さんを見かけたので、「禁足地の線光は本宮山に飛んで行ったのですか。」と聞いてみたら、「本宮山ではなく、この社に面する裏山ですよ。」とのことであった。


高野山(現在の本宮山:緯度経度:35.492969, 132.933982)
※緯度軽度をGoogleマップの検索窓に入れて検索すると場所を示してくれます。




境内に禁則地の立て札の立つところ

光線が右手の茂みに飛び込んだ

大社づくりの立派な本殿

そびえるような高野宮の本殿

海藻や竹筒などが拝殿横にかけてある

潮汲みの海藻と潮の入った竹筒など

高野山(現在の本宮山)からの眺め

本宮山から眼下に宍道湖が一望できる