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伝説の打ち寄せる赤浦海岸

でんせつのうちよせるあかうらかいがん 

見る知る出雲エリア平成時代

 ザザーン、ザザーンと寄せ来る日本海の波が砕けて広がる白い泡ぶくの中からラグビーボール大の赤い石がゴロゴロと現れる。ここは赤浦と呼ばれる島根半島の中央部に位置する海岸である。晴れ渡った青空のもと、海にはいくつかの島が見え、この日はお坊さんを始め、多数のみなさんが波の音に耳を傾けながら瞑想をされている。


 聖地赤浦参拝の方々で、この赤浦から南東へ2キロメートルほどのところにある臨済宗の古刹、一畑薬師の秘仏薬師如来が海中から発見されたという伝説が伝わる地へ参拝されているところである。
 赤浦の海には海岸の近くに黒いゴツゴツした岩肌の燈明岩、別名ミサゴ岩があり、これが伝説の場所を示している。伝説では、『与市という漁師がある日、赤浦に漁に行き海上を廻り飛ぶミサゴという鷹のような海鳥を見つけ、その廻り飛ぶ様子を不思議に思った与市が舟を近づけると、海中に光るものがあり、それを掬い上げるとお像であったので、持ち帰って家に安置した。ある日、旅の僧が一夜の宿を求めたので快く泊めた時、そのお像を見て「これは、左手に薬壷、右手に施無畏の印を示しておられる。間違いなく薬師如来である。直ちにどこかよい霊地を選んで安置するように」と言い残して行ってしまった。その後、与市の夢枕に薬師如来が現れて、「親孝行な与市よ、あなたの信仰心の深さを示すため、あの百丈が滝から跳び降りなさい。母親の眼は治ります。」と告げました。与市は坂浦にある百丈が滝から飛び降りる決心をし、身体に千把のワラを巻きつけ、「えーいっ」と跳び降りました。そこへ、わが子を案じて手探りで駆け寄った母の眼は見事に開き、与市としっかりと抱き合いお互いの無事を喜びました。そして、その薬師如来像を安置する場所を求めて出かけ、不思議な縁に引かれて現在の一畑薬師の地にたどり着き四間四面のお堂を作って安置しました。』これが、寛平6年(894年)4月8日のことと伝えられており、一畑薬師創建の年とされている。
 この赤浦へ行くには、出雲市坂浦町にある佐香コミュニティセンターで、赤浦への道の様子を聞いて行くと良いだろう。季節によって草の生い茂りや強風の後の倒木の様子などが参考になると思う。佐香コミュニティセンターへ上がる道路の脇から赤浦への道があり、距離は約1.3キロメートルで、ほぼ下りばかりの山道となっており、中国自然歩道でもあるので急なところには階段などが整備されている。雨の後は地道が滑るため止めたほうが良い。また携帯電話もつながらないことがあるので、複数人で行くのがおすすめである。途中で日本海の眺めの良い場所もあり、天気の良い春や秋には格好のハイキングとなる。
 赤浦の東側にある階段をあがり山を越える途中に地蔵鼻という断崖があるが、そこが赤い岩でありこの岩が崩れ落ちたと思われる岩塊が海の中にある。それらが波に洗われて丸い石となって赤浦海岸に打ち上げられると推測されている。赤い岩は鉄分を多く含む流紋岩である。その地蔵鼻の稜線を越えて急な山を下る途中で、坂浦の漁港の東側にそびえる崖を眼下のテトラポットの向こう正面に見ることができる。この高い崖が与市が飛び降りた百丈が滝である。地元の漁師によると雨が降ると海から滝が流れる姿が見えるという。この滝は与市の伝説にちなんで千把が滝とも呼ばれている。こうした地形、風景に物語のある赤浦は、くにびきジオパークでも注目の場所でジオパークツアーなども催行されている。
 一畑薬師の薬師本堂に向かって左前にある医王像と書かれたお堂の天井絵に与市の伝説が描かれている。また、境内には漫画家水木しげるさんのゲゲゲの鬼太郎で有名な目玉おやじの銅像も各所にあって、目のお薬師として知られる一畑薬師への参拝者の目を楽しませている。
 取材では島根半島四十二浦バスツアーと一畑薬師による聖地赤浦参拝によって赤浦を2度訪れたが、80代の男女も元気に歩かれていた。なお、赤浦の赤い石等は地元では持ち帰ると目が見えなくなると言われているので、写真撮影を記念にされることがおすすめである。

この赤浦海岸に関してGoogleMapで検索できる緯度経度を示します。
赤浦    35.506309, 132.852684
一畑薬師  35.496721, 132.874140
佐香コミュニティセンター 35.499997, 132.848757




瞑想するみなさんの向こうに見える黒い岩がミサゴ岩(燈明岩ともいう)

伝説のミサゴ岩は中央の黒い岩

赤い石は人の拳から頭ぐらいの大きさ

赤浦海岸の岩は赤いものが多い

与市が飛び降りたという高い断崖絶壁である

正面に見えるのが百丈が滝

土日ともなると参拝者でにぎわう境内

一畑薬師の本堂