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武蔵坊弁慶の生誕伝説

むさしぼうべんけいのせいたんでんせつ 

見る知る松江エリア平成時代

 牛若丸と弁慶をご存知だろうか。牛若丸とは若き日の源義経のことである。大男の弁慶のぶんと振るう薙刀の鋭い切っ先をひらりと飛んで交わす牛若丸。その牛若丸に降参した弁慶は後に、義経が兄の源頼朝に追われて、奥州にて多くの敵に囲まれた時、義経を守って雨のように降る矢を一身に受けて立ったまま息絶えた。その「弁慶の立ち往生」で有名な弁慶の生誕地が出雲にあるという。


 弁慶が生まれたという森に行ってみた。弁慶の森の入り口の手前に弁慶の立岩の標識、弁慶5歳で持ち運んだ大石というが、その2メートルほどもある高さにびっくりしつつ弁慶の森入り口に至る。そこに掲げられた解説は大きな文字で「武蔵坊弁慶が生まれた森。弁慶の母弁吉は紀州和歌山県の田辺市の生まれだが、縁あって長海の里に来て弁慶を生んだ(1151年3月3日)という。森の入口から5分程登ったところに母弁吉が手で掘ったといわれる弁慶産湯の井戸跡がある。また中央には、弁慶の母の御霊をまつる為に建立した小さな祠、弁吉女霊社(じょれいしゃ)があり、弁吉女霊社祭が毎年7月1日この地で行われる。」とあった。
 誕生日が3月3日の桃の節句の生まれなのか、と思いつつ山道へ足を進めると1分ほどで巨木の脇を苔むした石段が続いていて、こんな石段がまだまだ続くのかと我が身を励ましながら石段を登ると、平坦な場所が広がって中央になにやら祠がある。近づくと弁慶の森という看板もあって、入り口の解説板からは50メートルぐらいのものであった。
 弁吉女霊社は石の小さな祠で、玩具の刀が数本と自作したと思われる木製の薙刀が二本供えられ、そこには安産祈願と書かれていた。空高く太い枝を伸ばしている巨木が数本あって、信仰のために守られてきた場所だと感じる。昔はそうした祈願のお籠り堂もあり、産湯の井戸の水でお茶を飲んだりもしたという。
 弁慶の生誕地は一般には和歌山県の田辺市と伝わり、弁慶まつりなどが開催されているようだ。しかし、実際の弁慶は「義経記」を初めとした創作の世界で詳しく語られているだけで、その実在すら定かでは無いというのがほんとうのところらしい。
 それにしてもだ、この長海の弁慶の話はまだあるのである。この弁慶の森から里におよそ250メートルほど出たところに長見神社があり、そこには弁慶出生にまつわる母弁吉の来歴や、弁慶が修行を終えて諸国修行に出るまでのいきさつなど、弁慶の手によって書かれたと伝わる長文の巻物「辨慶願文(がんもん)」(写真は長見神社提供)が残されている。そのコピーが拝殿に展示されていた。
 また、この長見神社の近くの集落には「越えた坂」が伝わる。生後2ヶ月で歩き出した弁太(弁慶の幼少時の名前)を、野良仕事にいく母弁吉が、動き回らないようにと麻縄で石臼にくくりつけていたが、母恋しさのあまり、弁太は母のところにニコニコと笑顔で石臼を引きずって来たのだという。そのやって来た坂道が「越えた坂」と呼ばれ、今も伝わっている。路面はまさに石臼の目立てをした溝のような筋がいくつもあって急な坂であることを示している。弁慶の生後まもない逸話である。
 こんな怪力の持ち主である弁太は毎日の食事が5人前で暴れん坊であったので「鬼若丸」と呼ばれ、お寺に修行に出されるも6歳でお寺を追い出されたという。そして7歳の時には暴れて村中が大騒ぎとなり、母弁吉が反省を促すために弁太を中海の無人島に置き去りにしたという。その島が今では弁慶島と呼ばれているが、そこに現れた天狗に剣術や学問も習い2年が経つと天狗は弁慶の父親だと明かして飛び去ってしまう。またもや置き去りにされた弁慶は島の石を拾って海を埋め道を作って脱出したのだという。そして近くの枕木山の山頂付近にある臨済宗の華蔵寺で修行し名前を弁慶と改め、叔父で刀や槍を作る刀匠の成相定恒(ありあい さだつね)に太刀を作ってもらう。そして完成した銘刀は、その刃渡り蒼天に光り、剣先雨を呼ぶの出来栄えであったという。それを見た弁慶は「このような銘刀を他にも作るのか」と問うと定恒は「私の生業なので金子次第である。」と答えたので、弁慶は一刀両断に定恒を切り捨てたと言われている。こんな恐ろしい伝説もあり、この大山を望む中海のほとりが、ほんとうに弁慶生誕地ではないかと思えてくる。大山にも弁慶伝説はあるのだからなおさらである。
 こうした弁慶生誕伝承については道の駅本庄に解説板があったり、弁太・弁吉のマスコットキャラクターの石像があったりして、最初に立ち寄ってパンフレットを手に入れると巡り歩きが楽しくなる。
 
この武蔵坊弁慶の生誕伝説に関してGoogleMapで検索できる緯度経度を示します。
長見神社:35.533308, 133.146616
弁慶の森入り口:35.535185, 133.146595
弁慶島:35.533308, 133.146616
越えた坂:35.527928, 133.130625
刀匠の成相定恒の墓:35.496291, 133.134272
(道路の反対側の駐車スペースに境界杭があるので、ぶつからないように注意が必要。)
道の駅 本庄:35.518195, 133.136772




鳥居からおよそ50メートルの参道が続く

鳥居の奥に長見神社

大きな木のたもとに佇む石の社

弁慶の森にある弁吉女霊社

巻物としては40メートルほどあるという

中央に「名を弁慶と」とある辨慶願文の一部

陸から約150メートル沖にある周囲約600メートル、高さ約25メートルの木々の茂る島

左奥に霊峰大山が見える弁慶島