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一畑口駅

いちばたぐちえき 

見る出雲エリア不明

『一畑口駅』周辺は小境地区といい、昔は「小酒井」と書いていたと伝えられる。最初の目的地は、小境とお酒にまつわる「佐香(さか)神社(松尾神社)」。
その後、薬師様として知られる「一畑薬師」へ。門前町では、地元の人たちのさり気ない心遣いに触れる。ここでしか、そのときでしか味わえない饅頭をほおばりながら、地元の方が語る薬師さんのいい伝えに耳を傾ける。


◎一畑口駅から松尾神社へ 
最初の降車駅。この駅は全国的にも珍しい“平地のスイッチバック”だ。ゆっくりと自転車を降ろす。周りは田んぼと畑。ゆったりとした空気が漂っている。
駅から自転車で北へおよそ5分。赤茶色の鳥居が迎えてくれる松尾神社。その先の石段を登ると境内にたどり着く。そこはきれいに清掃され、静かな雰囲気。毎年10月13日のお祭りは、新酒を祝う人たちで大賑わいだという。
正式名は佐香神社。佐香とはこの地の古名で、ここで作られた米の醸造酒が、「サカ」と名付けられ、やがて「酒」となったと伝わる。日本酒が「サケ」発せられるようになった地であるとされている。佐香神社と酒作りとの関係は出雲国風土記にも記されており、“お酒のふるさと”なのかもしれない。気持ちのいい空気ときれいな水、そんな環境で育てられた米から作られたであろうお酒に、当時から地元の人たちは舌鼓を打っていたものと想像する。

◎一畑薬師 
松尾神社からさらに10分ぐらい北へ。三叉路の看板には「一畑薬師左折」となっているが、今回は“名物”である1138段の石段を通って上を目指す。石段の入り口は、注意しないと通り過ぎそうなほど地味だ。少し広くはなっているが、自転車を停める決まったスペースは無い。仕方なく、地元住民向けの生活バスの停留所があるので、そこに自転車の鍵をかける。後で聞いた話ではこの生活バス、一般観光客でも利用できるらしい。自転車持ち込みは、無理かな。
いざ、石段へ。先程の松尾神社の石段と違い、落ち葉やコケでワビサビを感じる階段。そんなとき、石段の端で「ガサッ」という音。季節外れの暖かさに目が覚めたのか、ヘビがニョロニョロ。思わず「キャッ」と僕にすがりつくゆかりさん。「これもいいかも」と思いつつ、ヘビが苦手な僕は足が竦んでいた。
最初は話も弾むが半分も過ぎた頃だろうか、ふたりとも無言。再び言葉を交わすようになったのは、一畑薬師の姿が徐々に見えてくる8合目辺りだった。
―その昔、漁師をしながら、盲目の母親とひっそり暮らしていた与市。ある日の赤浦での漁。金色に光るミサゴ(タカ目タカ科)に導かれ沖に出ると、海の中に光るものが。引き上げてみると、それは大きな薬師如来の像だった。その後、与市の家に旅の僧がその像の由緒を説き、しかるべき場所に奉るよう告げる。しばらくして、与市の夢に薬師如来様が登場。「百丈(・・)が(・)滝(・)から飛び降りたら、母親の目を開けてやろう」と告げる。周囲の反対を押し切って、与市は滝から飛び降りた。心配する母親、周囲の人々。しかし、与市の身に怪我は一つも無く、駆け寄った母親の目は、はっきりと開いていた。与市は薬師如来を背負い、山中をさ迷い歩いていると、三人の童子に導かれ、宍道湖沿いの山腹へ。3匹の白狐を見たその場所で、「ここにしよう」とお堂を建て薬師如来を奉った。―
門前町のお土産屋さんが語ってくれた薬師様のいい伝えだ。

◎門前町 
 一畑薬師から駐車場へと向かう参道には数軒のお土産屋さんなどが並ぶ門前町がある。以前は、すべて石段の脇に並んでいたらしい。宿やお土産、食堂と、それは賑やかだったとのことだ。1961(昭和36)年から1979(昭和54)年にかけて、『一畑パーク』という遊園地と動物園の複合施設が存在していた。山の急斜面を利用した構造は旭山動物園よりも先輩かもしれない。その頃、石段脇から移動しいまの形になったと、あるお店の店主が話してくれた。閉園後、辺りはひっそりとしているが、その静かな雰囲気はとても落ち着けて、それはそれで気持ちのいい場所にも感じる。
 お饅頭屋さんの『開眼堂』さんは、現在のご主人が3代目。それまで酒饅頭だけだったが、さまざまな種類に挑戦。今では黒ゴマ、カボチャ、きな粉などが人気商品である。基本的に添加剤を使っていないので日持ちは悪いが、素材の味がじゅうぶんに引き出された饅頭だ。毎日、1種類をていねいに手作り。だから行ったときにあるものしか食べられない。でも、これが本当の手作りなんだ、と改めて思う。そのご主人が見せてくれたのが数冊のノート。ここに立ち寄ったお客さんが書き記して帰るらしい。中には「おじさんの饅頭でおじいさんとおばあさんが元気になりますように」。ご主人は誇らしげに「これを見ると、また饅頭作りに精が出ますよ」と笑っていた。
 
◎湖畔を走る 
 開眼堂のご主人が丹精込めた手作り饅頭でエネルギーを補給。石段登りでクタクタだったゆかりさんも饅頭が効いたのか、下りの石段を一気に降りて行く。徒歩から自転車に乗ると、その便利さがありがたい。しかも宍道湖沿いの国道431号線までは緩やかな下り坂。宍道湖からの清清しい風を受けながら国道と一畑電車の間を走る。国道から離れ、宍道湖沿いの自転車専用コースへ。ここは湖のすぐ脇を走る。朝の早い時間なら、間近でシジミ漁を見ることができる。宍道湖のヤマトシジミは格別だ。今朝の松江の宿でも朝食で出た。
この自転車専用コースは、宍道湖の生態系が紹介されている『ゴビウス』や『水鳥観察』、冬はスケートもできる『湖遊館』一帯へと続いている。ここはまた次回、時間をつくってゆっくり訪れたい所だ。
 この辺りは宍道湖の西岸になるため、宍道湖とはここでお別れ。『湖遊館新駅』から電車へ乗り込む。車窓からは一面に広がる出雲平野が見渡せる。電車は間もなく『雲州平田駅』へ到着した。




平地のスイッチバックは全国でも珍しい

一畑口駅

佐香神社(松尾神社)はお酒の神様

佐香神社の鳥居

目の薬師様『一畑薬師』

一畑薬師

『開眼堂』さんはお饅頭もおふたりもアツアツ

門前のお店「開眼堂」