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あれも、これも、それも逸品揃い

あれも、これも、それもいっぴんぞろい 

見る知る大田エリア平成時代

 黄金の国ジパングとは石見銀山を指していたとも・・・。大量に産出された石見銀山の銀は中国へと伝わって行ったと言われている。その銀を目指して、欧州から日本へ多くの外国船や文物がやって来た。望遠鏡、眼鏡、時計を始め医学や植物学の書籍なども。後の産業や学問が広がっていくきっかけを作ったのだろう。そんな石見銀山の今と痕跡を訪ねて、今日も多くの人が訪れる町を歩いてみる。


●銀山の町にドイツパン
観世音寺の岩山を降りてくると、町並みに赤い軽自動車の箱バンがゆっくり走って来て、滑り込んだところは石見銀山大森郵便局だった。少し色あせた赤色が町に似合っている。この郵便局の向かいに以前は中村パンという老舗のパン屋があったのだが、今はドイツパンを売るベッカライ コンデトライ ヒダカという店になった。ガラガラとガラスの引き戸を開けて入るとパンの香りが満ちている。名物はブレッツェルというビールにもあうパンらしく、店のマークにもなっている。店主の日高さんはドイツでマイスターとなったパン職人で、店に並ぶパンはおよそ40種類にも及ぶが、特に石見銀山の観光シーズンには飛ぶように売れて行くお土産の一つとなっている。写真の丸いロッゲンミルシュブロートはドイツ産ライ麦を使った酸味のあるパンでサラダや肉料理、野菜スープなどに合うという。日高さんはこの赤瓦の人々の暮らしのある町が好きだと言い、地元の甘夏柑を使ったパンを作ったり、ワカメを使ったパンの試作をしたりと地元の産品を使って作るパンにも挑戦している。

●往時を偲ぶ大邸宅でくつろぐ
パン屋を後にして進むと、大きな白壁の建物が姿を現してくる。近づくと、小さな路地の奥へと白壁がずーっと続いていて建物の大きさに驚く。ここは、代官所の御用商人を務めた熊谷家という商家で、部屋数は約30を数え、母屋の他に5棟の蔵もある。江戸時代の1700年代から家業である鉱山業や酒造業とともに、代官所に納める年貢(ねんぐ)銀を計り検査する掛屋(かけや)なども務めており、家具調度品に当時の隆盛ぶりを見ることができる。中でも、居間の床下には石組みで作られ、人が入れるほども大きな地下蔵があり、火災に備えた耐火金庫であったと考えられている。
また、台所には大きな黒光りするかまどがあり、小さいものも3つ並んである。部屋の数からしても多くの使用人を始め来客等の世話に忙しい台所であっただろうと想像される。熊谷家の管理は合同会社「家の女たち」という地元の女性たちが行っており、かまどに毎月一度は薪をくべて火を入れて「かまどの日」としてイベントを行っているという。
2階の広間からは庭と道具蔵が見下ろせ、近隣の赤瓦の家々も眺めることができる。この部屋には「なんぞかんぞ茶」というクマ笹やビワ、エビス草などの入ったお茶が用意されており、のんびりできる。また、梅アイスや甘酒なども販売されておりお座敷などでいただくことができる。テーブルに置かれた書留帳を開くとタイムスリップ、迷子になりそうなどの文字が並び、滞在時間の項目には60分という人が多くあり、とびきりは4時間という人が居て驚いた。気が緩んで眠ってしまったのだろうか。それはそれで幸せな気がした。冬にはコタツが用意されている。

●必見の品々揃う資料館
熊谷家を出て街並みを北へと進むと銀細工の店や食事処があり、銀山川に沿った先に城上神社の鳥居が見える。城上神社は拝殿の天井に極彩色の龍が描かれており、真下で手を打つと龍が鳴くので人気のスポットとなっている。どんな声で鳴くのかはお試しあれ。
さて、その城上神社の手前に大きな屋敷がある。ここは石見銀山資料館で、元は江戸幕府直轄の石見銀山を治めた代官所の跡である。道路に面した門長屋には門番詰所や仮牢が残っているが、資料館の建物は明治35年に建てられた当時の迩摩(にま)郡役所の跡だそうだ。資料館として石見銀山の調査研究を幅広く行っており、鉱山資料、奉行代官資料、町方資料を始め採掘工具や鉱石、絵巻なども展示しており、当時の石見銀山の様子を知ることができる。
展示物の中で興味深いものを二つ紹介すると、一つは福石という石見銀山の銀を始めとする鉱物標本である。鉱山の発掘や鉱脈の発見を仕事とする現在の鉱山技師とも言える銀山師であった高橋家に残されていた品々。木箱に入れられ、天保など江戸後期の採取年月日や場所(坑道、鉱脈名)、名称などが詳しく書かれた和紙にくるまれていたという。
もう一つは蒸留酒のジンを入れるジンボトルである。オランダ船によって運ばれてきて、長崎の出島で捨てられたものが拾われて、石見銀山まで来たらしい。木箱の内側に「宝暦十年辰年ふらすこ器 銀山神酒屋」と墨書されている。宝暦10年は1760年、石見銀山の存在が遠く欧州まで伝わっていたかもしれない頃、このジンボトルは銀の道を逆に辿って銀山にやって来たのだろうか。



この石見銀山に関してGoogleMapで検索できる緯度経度を示します。

ベッカライ コンデトライ ヒダカ 35.119472, 132.446154
熊谷家住宅     35.120885, 132.447417
石見銀山資料館(代官所跡) 35.122000, 132.447926




ブレッツェルはメガネのような穴の空いたパン

真ん中がブレッツェル

上には屋根を支える太い梁がドーンと横に渡っている

玄関を入った広々した空間

小さな石粒ような銀の塊

福石という鉱石標本

銀山おみき屋と書いた取っ手の付いた木箱

日本酒入れた?ジンボトル