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遙堪駅

ようかんえき 

見る知る出雲エリア平成時代

 前回の続きとして、おたれの滝の次から始めたいのだが、その前に高浜駅の次にある遙堪駅の近くの特別なスポットを紹介しておきたい。
 遙堪駅に向かう車窓の南側に、赤い鳥居の並ぶところが目に飛び込んで来る。そこは粟津いなりとも呼ばれる稻生(いなり)神社である。参道に並ぶ20基の赤い鳥居と神社の間を電車が横切って疾走していく。カメラマニア絶好のスポットらしい。田植えから青田の頃が良いとのことである。


◎弁慶の石臼
 さて、遙堪駅から真北へ約1キロメートルのところに荘厳寺(しょうごんじ)がある。枝垂れ桜の名所である。この荘厳寺へ前回のおたれ滝から自転車を走らせていると、途中の道沿いに水神と刻まれた高さ1メートルほどの石神があった。ここには弁慶の石臼と呼ばれる石があり、武蔵坊弁慶が遙堪から山を越えたところにある鰐淵寺の鐘と修験道の聖地であった大山(鳥取県)の鐘を取り替えに行くときに、鰐淵寺から着物の袂に入れて持ってきたものだという。弁慶の怪力を象徴する物語で、それがこの地区の地名由来という。石臼は水神の石神の下にある2つの石だそうだ。

◎荘厳寺(しょうごんじ)
 荘厳寺にやってくると、そのお墓の広がる玄関で2体の厳しい姿の仏像が出迎える。開山は約400年前で曹洞宗の寺院であるが、その前は鰐淵寺の坊であったらしい。その名残なのか、寺の奥の谷に蔵王権現の堂と不老の滝があった。北山を越えたところにある鰐淵寺は浮浪の滝に蔵王権現を祀っていた。
 荘厳寺の裏庭はいつでも見学ができ、池のある庭園はツツジの季節は特に美しい。この庭園から蔵王権現、不老の滝などへ行ける。一帯は不老山公園として地域の方々によって整備され、草花にそれぞれ名札が立ててあって、山野草の植物園となっていた。

◎阿須伎(あずき)神社
 さらに、荘厳寺から1キロメートルほど西にある小川の阿式谷川に沿って進むと、阿須伎神社があった。『出雲国風土記』に載る神社であるが、風土記にはなんと同名の神社が遙堪におよそ40社記されている。それが長い年月の間に今の1社に合祀されたという。祭神はオオクニヌシの子である阿遅須枳高日子(アジスキタカヒコネ)である。農耕の神様と言われているが、狭い地域に、この神を祀る社がなぜ40社近くもあったのだろうかと不思議に思う。
 本殿の左側の境内社には神体山 出雲御山神社の札が立れられていた。今は弥山(みせん)と称されるこの山は標高506メートルで、頂上からは遠く『出雲国風土記』にある国引き神話で土地を引き寄せた綱を括り付けた三瓶山を望み、その綱の跡とされた園の長浜の雄大な遠望と眼下に大社の町を見下ろせる絶景の場所である。出雲御山神社はここから、里に降りたである。
 本殿の左後ろに回り込むと、勇壮な大社造りの本殿を見ることができる。そこには、大きなゴツゴツした岩の荒神と縦長に丸い石の水神が並んで祀られていた。訪れた日、3人の壮年者が本殿の前に額づいて般若心経を唱え、はたまた祝詞を奏上して一心不乱に祈る姿があった。

◎竹やぶトンネルと水神さん
 さあ、さらに出雲大社の方へと西に向かう。この時、立ち並ぶ家々の後ろに側にある道を見つけてもらいたい。その道を通ると、竹やぶトンネルを通ることができるからだ。特に冬から春にかけては、笹の枯葉の上に椿の赤が点々と続く華やかな道となる。さらに、大社から鰐淵寺に向かう人々のために一丁地蔵がところどころに所在し、荒神さんもあったりで、祈りの道にもなっている。その中で三十歩山(さんじゅうぶやま)の麓に、しめ縄が張られた、「びしゃもんさん」と呼ばれる大きな石があった。風化しているが、よく見ると道祖神のようにも見える像が2体彫られている。古くはもっと高い山の上の道にあったものという。
 この辺りで南の方を見下ろすと、島根ワイナリーが見える。ワインやぶどうジュースの試飲ができるので人気の施設である。周囲にはぶどう栽培の温室の白い幕が波打って広がっている。この一帯は菱根と呼ばれる湿地だった地域で、今から6、7千年前の縄文早期の遺跡が発見されている。遺跡の様子から当時の人々は、北山からの山の幸と日本海の外海、内海の海の幸の両方に恵まれていたらしい。その菱根遺跡にほど近い菱根稲荷神社の裏を流れる河原谷川の脇に、こんこんと水の流れる共同井戸があった。昭和33年に山水を引く簡単な水道施設になったらしいが、それまでは、弥山から流れ出る河原谷川の中腹から松木をくり貫いた樋によって各家々とこの井戸に配水されていたという。明治の文字が彫られた水神さんが鎮座して、井戸の中には赤い金魚が数匹泳いでいた。
 この天平古道や山手往還を歩いていると水神の祀られていることがなんと多いことか。北山からの清冽な水の流れ出るところに人が住み着いて、米などの作物を作り、水の源である山に祈りを捧げたであろうことが実感できるような旅だった。


☆1日フリー乗車券1500円
一畑電鉄には全区間で1日乗り降り自由の乗車券があり、この乗車券に自転車の持ち込みが含まれています。自転車と共に何度乗り降りしても1500円です。なお、自転車1台の1回の持込み料は310円です。

この電鉄出雲市駅に関してGoogleMapで検索できる緯度経度を示します。

粟津いなり   35.390234, 132.740911
荘厳寺     35.396887, 132.726865
阿須伎神社   35.399370, 132.715664
竹やぶトンネル 35.397136, 132.709973
河原谷共同井戸 35.396939, 132.702909




石臼といわれる2段の石の上に水神の石がある

弁慶の石臼

石の鳥居を過ぎて、あずき神社の大きな拝殿が見える

阿須伎神社

二本の木の間にしめ縄が渡された奥にある

びしゃもんさん

蛇口から水が流しっぱなしの小さな井戸の下に大きな井戸がある

河原谷共同井戸