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美味しさを追求する自由

おいしさをついきゅうするじゆう 

知る食べる出雲エリア平成時代

 「炭と薪で炙るグリル料理がメインなんです」、と言いながら撮影に出て来たのはリーフサラダと和牛のほほ肉赤ワイン煮である。「なにか炙った料理が良かったですかねえ」、と店主は口にしたが、細かいことなど頓着しない自由。ここは、出雲大社の勢溜(せいだまり)から神門通りを50メートルほど下って左斜めに進み、脇道に折れて100歩ほど行くと紺碧の壁とガラス窓があり、扉のガラスに白く2ndとある。


 その扉を開けた突き当たりは5席のカウンターになっている。ちょい飲みのできる地元向けの嬉しいコーナーと感じた。店主の安食(あじき)さんによると、ここはペット連れの方や軽く一杯を楽しみたい人向けになっているという。店は古民家を改築したものだが、これまでにも改築した痕跡があった家らしい。2階に上がると、そんな時代を経た剥き出しの大きな梁が掛かっている。店主がこだわったテーブルは、大きさも絶妙であったが、脚も1本脚ではなく4本脚でないとダメという。4人席が3つ、2人席が2つとゆったりとしている。
 ここに取材前にプライベートでコースを食べに来たことがある。前菜は、アカミズのカルパッチョであった。アカミズは日本海でよく獲れるキジハタのことでアコウとも呼ばれる。この魚、地元でも普通は煮魚になるのだけれど、それをカルパッチョとは楽しい。プリッと甘い。店主は大社生まれではないけれど、ここで店を開いて良かったという。大社には漁港があって、毎日その市場に近隣の漁港からも魚が集まって来る。日本海の新鮮な魚が上がるのである。自分の眼で見て選べ、漁獲が少なくて市場に出ないような魚でも仕入れることができるという。「その魚を一匹丸ごと炙って出すんです。するとお客さんがびっくりされる。」と笑顔で話してくれた。それが出されるのは5000円のコースと聞いて、また食べに来たくなってしまうのは、料理の旨さゆえだろう。
 3000円のコースは次のように続いた。素材の味がしっかりした鶏の肝臓と肉のパテ。そして焼き目のついた三元豚の炙りグリル。焦げを含んだ味わいが広がる。炭は奥出雲で、樫などの硬い材を使って作ってもらっているという。炭は奥出雲で、樫などの硬い木材を使って作ってもらっているもの。その炭に桜の木を薪として加え、素材を炎で炙るとともに香り付けにもしているそうだ。グリルに添えられたアスパラガスの甘さも際立っていた。続く美しい姿のアマトリチャーナ。塩は抑えて味しっかりでいくらでも食べられそうだった。デザートはティラミスとくるみのアイス。これに飲み物と柔らかいフランスパンが付いていた。連れと話しながらの食事はあっと言う間の2時間。
 都会で料理を学んで、たまたま成り行きで店を持つことになったと言うけれど、果たしてそうだろうか、みっちり料理と向き合って、貪欲に吸収してきたのではないか。フランス料理なのか、イタリア料理なのか。そんなことはどうでもいいらしい。
この洋食の店の1階厨房の奥には6畳の和室がある。それも2階からも階段で降りられる。この和室、地元の人たちに人気だという。
 冒頭に上げたリーフサラダ(ハーフ)550円は、店主のご両親の手作り野菜も混じっているそうで、野菜の新鮮な美味しさも忘れられない。また、1階にも2階にも黒板にチョークでびっしり書き込まれたメニューには、奥さん担当のワインも数多く用意されている。
 さて、この2ndのある通りを馬場通りと言うのだが、大社の町でも江戸時代になってから生まれた通りある。店から東へ100メートルほど行くと堀川がある。この運河が江戸時代中期に完成し、そこに神光寺橋がかかって、東の方の出雲の人々がこの橋を渡って出雲大社に参詣するようになった。歴史ある大社の中では遅咲きの通りであるが一気に栄えたのである。1890年(明治23年)に小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が出雲大社を初めて訪れた時、出雲から人力車で神光寺橋を渡り、2ndの前を通って、勢溜の西にある因幡屋に宿を取ったのである。神光寺橋から2ndあたりまでに飲食や雑貨などの店が軒を連ね、ここから神門通りまでは宿屋が並び、今でも名残の大きな屋敷を見ることができる。
 そんな馬場通りにある2ndの玄関ガラスにはイルカがあしらわれている。なにか曰くがありそうだが、イルカと店名の由来は聞き忘れた。

住所 出雲市大社町杵築南783−3
電話番号 0853-25-8344
営業時間 ランチ11:30〜15:00 ディナー18:00〜22:30 
定休日 火曜、第1水曜
駐車場 有り(4台)




波打つ四角い皿に三角の山に盛られたみずみずしいサラダ

リーフサラダ(ハーフ)

大きな梁がむき出しになったノスタルジー溢れる2階

料理を楽しむスペースはこの2階

こだわりの炭と薪の炎で炙られ網目のついた肉

三元豚の炙りグリル料理

丸いお皿にうず高く盛られたトマトベースのスパゲティ

美しいアマトリチャーナ