出雲大社の近くの路地を歩いていると、珍しい洋風の古い建物があって、昔は何に使われ、誰が住んでいたのだろうかと思っていた。それがある時、カフェになっていたのだ。
親しい人に美味しい店ができたからと誘っていただいて、もう日が暮れていたけれど、連れて行ってもらった。その洋風の建物には灯が点いていて、ビーエスケーケー・ゴハンという不思議な名前の店になっていた。
玄関の門を入り、建物の中に入るとpullと手書きされたガラスの扉があって、さらに横に引くガラス戸を開けると、薄暗いカフェの空間が広がり、その先に庭園？が見えた。その庭に向いていく人かの人影が座っている。いくつものガラス戸が並んだ向こうに見えた庭には、なんと灯篭や岩が見える。まさか洋風の建物の中に照明に浮かび上がる日本庭園があるとは。面白い場所になっている。いや、元からこのような場所なのか。カフェの客席のあるところは、なんとなく洋風ではなくて、普通の日本家屋なのである。
改めて取材を申し込んで、２週間後の昼間に客席に座った。よく手入れされた庭が明るい。岩の下を黒色と橙色の二色をまとった鯉が優雅に泳いでいる。
注文した料理はカレー。テーブルに届いたカレーは、２種類のカレーがコラボする合いがけカレーである。写真の右がバターチキンカレー、左がトマトカレーで、奥には付け合わせの春菊と紅くるり（大根）のマリネ、レンズ豆の煮込みが控えている。多国籍料理の集合体であり、どれとも違う無国籍料理でもあるのだろう。いろいろな調理場を経験してきているシェフの野原さんは、とにかく美味しいものを、と考えているそうだ。試作してスタッフと味見しながら相談して創作しているという。
続いてはスイーツの焼きリンゴ、甘酸っぱい紅玉にラム酒とシナモンの香り。大山乳業の生クリームと木次乳業のミルクから作られたミルクジェラート。そして甘いクッキーのようなクランブルのサクサク感が楽しめる。飲み物はフラットホワイトというもの。これは、ニュージーランドのミルク少なめで濃いめのエスプレッソラテなのだそうだ。大山乳業も木次乳業も山陰の美味しい牛乳を作っている。
こうして昼間に来ると黒い椅子がキャンプ用のものだとわかる。キャンピングメーカーのスノーピークの椅子。テーブルも一つはキャンプ用。他は何か手作りのもので、この雰囲気が最近ときどき見かけるグラピングというしつらえに似ている。グランピングはグラマラスキャンプの略で贅沢なキャンプってことなのだが。それが洋風な外観で庭が和風という空間で違和感もなく広がっている。そしてハッと気がつくと、なんと床がコンクリートなのだった。和風の柱や敷居で、そんなはずはないという潜在意識でもあるのだろうか。そしてさらにびっくりする仕掛けがあった。床のコンクリートの敷居との境のあたりは布のシワが寄ったように見える。どうもわざわざそうしたらしいのだ。
コーヒーのカップなどにBSKKのロゴがしてあり、コンクリートにシワが寄せてある。料理の素材は地元産を厳選しているし、和風庭園はスタッフによって手入れが行き届いている。メニュー表示などはステンレス製だろうか、シルバーの上に太文字で印刷した紙だろうか、それが貼られている。あれこれと不思議なバランスとアンバランスがあって、人によって受け取るものが違っていそうな気がする。
およそ100年前の大正時代ごろの建築で、お医者さんの自宅だったという。大正時代になって明治の開国も一段落すると、洋風の生活に憧れをもつようになった日本国民。都市部では洋風を取り入れた和洋折衷の文化住宅が造られるようになったという。玄関と玄関脇の客間が洋風で、しかし、家の奥では靴を脱ぎ、畳でくつろぐといった生活スタイルが流行ったらしく、この建物もそうした社会背景の中で生まれたものかもしれない。
玄関脇の部屋に、このBSKK GOHANの仕掛けの大元となる総合アウトドアショップのBSKKがある。気のむくままの開店のため、まだ中に入ったことがない。洋風の客間だったのではないだろうか。あれこれ考えだすと折衷による折衷でくらくらしそうなる。
庭に泳ぐ白い錦鯉の背にはハートのマークがあると聞いたが、まだ、白いのを見てない。
住 所 島根県出雲市大社町杵築東463-1
電話番号 0853-25-8999
営業時間 [月・火・水・木]10:00〜17:00
[金・土・日]10:00〜23:00
日曜営業
定休日 火曜日・第1水曜日・第3水曜日
