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神の隠れこもる草山

かみのかくれこもるくさやま 

見る知る松江エリア平成時代

『出雲国風土記』の意宇(おう)郡に登場する神名樋野(かむなびぬ)は、神の隠れこもる草山の意味という。東に松があり、他の三方には茅があると書かれており、茅はススキに代表される草だから、古代はかなり草むした山だったと思われる。しかし、古代の人々は、その山に神が籠っていると感じていたというのだ。その山は、今の松江市山代(やましろ)にある標高171メートルの茶臼(ちゃうす)山とされている。


麓にある国府跡から茶臼山を望むと、出雲市にある神名火山と伝わる仏経山とそっくりな、横に広いどっしりした台形の山である。また、宍道湖北岸の秋鹿(あいか)あたりから見ると、背後にそびえる出雲富士として有名な大山とそっくりな形をしている。
これに登ってみようと、近くの八雲立つ風土記の丘で登山ルートを聞くと、茶臼山の北側にあるガイダンス山代の郷からの登山が楽だとのこと。後日、大きなスーパーマーケットの裏にあるガイダンス山代の郷へ行くと、中には見応えがある大きな石棺の実寸模型や埴輪などが展示されていて、この周辺が古代から賑わっていたところだと感じた。受付で茶臼山への登山口について聞くと、例年行なっているという茶臼山登山の資料をもらった。そこには登山口までの案内図も載っていた。また、茶臼山登山の人でも館前に駐車可とのことだった。
登山口はガイダンス山代の郷から真東へおよそ300メートルの住宅地の中に、西口登山道の看板があり、民家の脇から茶臼山に入って行くことができる。山頂まで450メートルと書かれていた。小さな畑の横を通って林に入ると、急な上り坂となる。丸木を使った段も整備されていて登りやすい。その急坂の途中、道の左側に細いしめ縄に紙垂の下がった場所がある。出雲地方に多い土地の守護神として祀った荒神さんである。手を合わせて登山の安全を祈願し、さらに登ると今度は右側にしめ縄に白い紙垂が下がったところがあり、よく見ると、その後ろには高さ2メートルほどの先の尖った黒い石柱がたっている。道標かとも思ったが、案内図によると、これは社日さん。出雲地方の神社などによく見られるもので、石製の五角柱に、天照大神や稲倉魂命などの神名が刻まれている。社とは中国で土地の守護神とされるように、社日とは土の神を指し、農耕の神として一般に祀られている。この日になると集落の農民は仕事を休んで社日に参り、直会(なおらい)をしたものという。ここの社日さんには、神名は見えなかったが、風化したのかもしれない。
急坂をさらにしばらく登ると、道はゆるやかになって歩きやすくなり、森が開けると頂上かと思える膨らみが上に見える。ここで、山道は一度下がって、また上がっていく。すると、あっけなく頂上についた。登山道入口からわずか30分足らずであった。頂上からの見晴らしは、すこぶる良い。宍道湖も中海も見え、その向こうにある島根半島の出雲から美保関までの連なりを一望できる。そのまま視線を横に滑らせて大山を見て、この意宇平野の南側山地を望み、足元に八雲立つ風土記の丘、神魂神社を見て、西方向の眼下にみえる大庭小学校のはるか向こうの山の上に、少し顔を出している神名火山とされる仏経山まで見ることができる。もちろん、島根半島にある他の2つの神名火山とされる朝日山、大船山も見えるのである。木々に多少邪魔されはするが、木立が整理されていて、ほぼ360度パノラマの眺望である。
この頂上は東西に40メートルほど平らになっている。ここには戦国大名の尼子氏に従う武将であった村井伯耆守(むらいほうきのかみ)の山城があったらしい。登ってくる時に一度下がったところは、城を守る掘の跡だそうだ。
茶臼山には、登って来た西口登山道の他に、南口、北口の登山道がある。南側には、真名井神社があり、その東には真名井の瀧がある。真名井神社は、南側から茶臼山を見たときの、ちょうど中央に位置している。意宇川方向から直線の道が真名井神社に向かっているので、すぐわかるだろう。石段を上がると土間の拝殿があって、本殿の瑞牆の扉に金色に輝く「有」の紋章が印象的である。伊弉諾尊(いざなぎのみこと)と天津彦根(あまつひこね)命をまつっており、『出雲国風土記』にも登場する古社であり、意宇六社の一つでもある。もともとの真名井は、古代には神聖な泉を指す言葉であり、調査・研究によると現在の真名井神社は今の真名井の瀧周辺にあったと考えられている。また、『出雲国風土記』意宇郡の川や沼の項に「真名猪(まない)池 周り一里あり」とあるのは、真名井の瀧の500メートルほど北西にある蟹穴池と推定されている。
また、茶臼山には山代社があったと伝えている。山代は、『出雲国風土記』に、「大穴持(おほなもち)命の御子である山代日子(やましろひこ)命坐せり。故、山代と云ふ。」とあるように古代からの地名である。この山代日子命を祀った山代社が、現在の真名井神社から茶臼山山頂へかけての途中、山の中腹にあったという。社は江戸時代に近くの古志原に移転していて今に至っている。この山代日子命の坐す山こそが、神の隠れこもる神名樋野の茶臼山にふさわしいのではないだろうか。


ガイダンス山代の郷
休 館 日 火曜日(祝日の場合は翌日)
開館時間 9:00〜17:00(入館は16:30まで)
入 館 料 無料
住  所 島根県松江市山代町470−1
電  話 0852-25-9490


この 神の隠れこもる草山 に関してGoogleMapで検索できる緯度経度を示します。

茶臼山頂上      35.436100, 133.093823
茶臼山西登山口    35.438696, 133.090301
山代ガイダンスの郷  35.438306, 133.087342
八雲立つ風土記の丘  35.426321, 133.090150
茶臼山南登山口    35.433324, 133.092061




出雲国府跡の復元柱の向こうに見える台形をした茶臼山

出雲国府跡から望む茶臼山

眼下に松江市街地が広がり、その向こうに宍道湖、さらに島根半島が広がる

山頂から松江市街と宍道湖を望む

宍道湖北岸から松江を見た時、手前が湖面に浮かんで見える茶臼山、後ろが大山(出雲富士)

手前が茶臼山、後ろが大山(出雲富士)

真名井神社の瑞垣の扉にある亀甲に有の字の神紋に日が射して金色に輝いている

真名井神社の瑞垣の扉