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数少ない青獅子舞とは

かずすくないあおじしまいとは 

見る知る出雲エリア平成時代

昭和も前半の生まれならば、獅子舞と聞いたら大体の方々は、赤い獅子の頭が家々をまわり、門前で囃子方の笛の音に合わせて舞って、中には家人の頭にかぶり付いて悪霊を祓うようなシーンを思い出すのではないだろうか。今回紹介するのは、そうしたものではなく、神社の祭礼として舞われている獅子舞である。それも獅子頭が赤色ではなく青というものだ。


紅葉の便りが聞かれ始めた令和元年では10月15日の夕方に、宍道湖の北西岸に接する出雲市園町にある埼田神社に向かった。埼田神社は一畑電鉄の園駅から北に約1.5キロメートルほどのところにある。朝方に下見に寄った時には、途中の道端に大きな祭りの幟が立っていたが、夕闇せまる青い空を背景に幟のシルエットが見えている。
神社の石の鳥居をくぐると境内は照明がたかれている。そこへ鳥居の向こうの夜の闇の中から、笛や太鼓の囃子の楽が聞こえてきて、カメラを構えた人たちが動き出した。
天狗のような鼻の高い面に、鶏頭をいただいた番内と三番叟(さんばそう)を舞う三人の子どもがやってきて、鳥居の左側に並んだ。鳥居から幟につながる細い道を獅子舞が囃子に合わせて身をくねらせて舞いながら進んでくる。
獅子舞の頭(かしら)は黒い。青獅子と聞いていたので、驚いてよく目を凝らして見ると少し緑がかった濃い色である。信号機の青が緑であるように、青と言いながら緑なのだろうと思った。その獅子舞は獅子頭が一人、胴体の紺地に白の模様の入った布の中に二人が入っている。いわゆる三人立ちという格好である。
獅子は鳥居の前まで来ると進むのを止めて、その場で舞い始める。これは鳥居舞という。それまでは、道中舞と呼ばれ、神社から南へ数百メートル離れた集会所から舞いながらやって来たのだった。獅子は鳥居の前で頭を低く地面まで下げて、さらに頭を右・左・右とすくうように振って、正面を向いてあげるように舞う。奉納を表す拝みの所作である。
鳥居舞が終わると境内へ入り、拝殿の前で、拝舞の前段と後段の二つの舞がある。番内は手にしている大弊を振り、獅子はそれに合わせるように舞う。そして番内の持つ小剣の収められた剣袋を獅子の口にくわえさせて、獅子はその剣袋をくわえたまま舞う。昔、この青獅子舞は獅子が2頭並んで舞っていたという。今に獅子舞を伝える本郷中町内と、もう一つ本郷上町内の獅子舞があったからだった。しかし、本郷上町内は昭和の初めに囃子方が亡くなり途絶えたという。
拝舞が終わると、番内は手にしている大弊を拝殿の宮司にささげる。宮司はそれを神前に供えて、短い神事の後、大弊が再び番内に渡されると、獅子舞の一行は、大弊を捧げた番内を先頭に拝殿と本殿を時計回りにぐるりと一周して、拝殿に向かって左に設けてある地面に茣蓙(ござ)を敷いた舞座に向かう。
ここからの舞座での獅子は一人立ちで、二人が抜けた胴体の布の端を尻尾(しっぽ)持ちが持って舞うことになる。その舞の中の「ささら舞」がこの青獅子舞の大きな特徴となっている。それは番内が編木(びんざさら)と呼ばれる元は田楽囃子に使われた楽器を手にして、これを振って音を出しながら、編木を奪おうとする獅子をあやすような所作をするところである。田楽とは、田の神を祀り豊作を祈る田遊びに始まるともいわれる楽や舞をいう。
この青獅子舞は後に詳しく記すように12段の舞がからなる。こうした12段の獅子舞は、江戸時代以前から獅子舞をして伊勢神宮のお札を配りながら諸国を巡った伊勢大神楽の影響を受けたものと考えられている。しかし、編木を使った舞や青獅子の頭の形が長いこと、舞の途中で囃子手からかかる「ありゃほう」などの掛け声が田楽の要素を色濃く残しているといわれている。そうしたことから青獅子舞は、昭和35年9月に県初の無形文化財指定となっている。
今から300年ほど前の宝永2年(1705)、松江藩3代藩主の松平綱近の命によって編纂が始まった地誌『雲陽誌』に、この祭りのことが少し書かれており、「一番舞四人ささらを手に持て舞なり、夫より獅々頭の舞あり」とあって、獅子舞と絡まないで、ささらを手に四人による舞があったことが分かる。現在、埼田神社に残されている編木が、四つあることから、それに使われていたのではないかと想像される。この青獅子舞、現在は埼田神社青獅子舞保持者会によって大切に受け継がれている。


青獅子舞は12段の舞について
出雲市立図書館に所蔵の昭和34年、埼田神社社務所作成の「島根県平田市園町青獅子舞之記」には、舞は次の順で書かれており、各舞の足の運び、手の動作、持ち物、服装など書かれており、特に舞の所作は詳しい。
1、道中舞
2、鳥居舞(「ぎおんばやし」ともいう)
3、拝舞前段(「拝舞の出し」ともいう)
4、拝舞後段(「拝舞」ともいう)
5、手踊(ておどり)
6、一双舞(いっそうまい)
7、永喜(ながき)
8、ささら舞(佐々良舞と書かれるが昔のは簓と書かれている)
9、刀舞(かたなまい)前段(「刀舞の出し」ともいう)
10、刀舞(かたなまい)後段(「刀舞」と普通にいっている)
11、鈴舞(すずまい)
12、三番叟(さんばそう)  千歳舞、三番叟(1)扇の段(2)鈴の段
※ただ今回は、上記順番が少々異なっていた。時代につれて舞の順番も変わるのであろう。また、祭礼の日も例年と1日ずれていた。




青獅子がかしらを地面まで下げて奉納を表す拝みの所作をしている

鳥居舞

びんささらを奪おうとする獅子をあやすような所作

ささら舞

細長い木の板が何枚も紐で繋がっており、揺らすとカタカタカタと音が連続的にする

編木(びんざさら)

拝殿の前に四方の竹を注連縄で囲った舞座が見えます

夜に浮かび上がる境内の舞座