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古民家のチョコレート工場

こみんかのちょこれーとこうじょう 

見る知る食べる出雲エリア平成時代

出雲大社の参道入り口にあたる勢溜(せいだまり)から神門通りを下って、およそ100メートルのあたりに来ると、左手にゆるやかに下って行く道がある。馬場通り呼ばれるこの道をさらに100メートルほど歩を進めると、左側にガラス戸の並んだ大きな古民家がある。ここがチョコレート工場だと言われても、だれもチョコレート工場とは想像もできないだろう。黒ずんだ柱や梁がチョコレート色に見えなくもないが。


ガラガラとガラス戸を開けて中に入ると、目の前にチョコレートらしきものがお行儀よく並んでいる。10センチメートルほどの四角いそれらは、綺麗な透明の袋に包まれている。チョコレート色をはじめ、ホワイトもあれば、抹茶チョコらしき緑色のものもある。ホワイトチョコレートを数時間煮詰めたものという飴色をしたブロードチョコレート。そして、青い色をしたチョコレートがある。これが、ここ沖野上ブルーカカオの工場兼お店であることを表すブランドチョコレートのブルーチョコレートである。この青い色は、ハーブティにするバタフライピーという青い花の色という。タイが原産国のこの花を大量に使って作られたチョコレートなのだ。食べてみると、チョコレートの苦さとは異なる紅茶のようなほろ苦さがあって、それに続いてレモンのような爽やかさを感じるという不思議な味わいだった。
さらに白い色のチョコレートがもう一つあるのは、酒粕の入った日本酒のチョコレートである。酒粕は、松江の創業明治15年の蔵元、李白酒造のものだそうだ。出雲地方でいち早く海外進出を果たした人気の蔵元である。

チョコレート色のチョコは原料のカカオの産地ごとに、ガーナ、トーゴ、ベトナム、コスタリカ、ハイチ、ベリーズなどとなっている。カカオは中央アメリカが原産地で、古代アステカ帝国ではカカオはさまざまな力をもつもと言われ、カカオの他にとうもろこしの粉などの入った飲み物として重宝された。それが、大航海時代から18世紀に世界に広がり、19世紀になると、飲み物だったチョコレートから食べるタイプのチョコレートが登場したという。チョコレートの歴史や文化は知っているようで知らないことが多い。

お店の奥にはカフェがあり、カカオミルクをオーダーした。工場は、チョコレートの品質に大きな影響を与える温度管理の点から壁で囲まれた空間となっていた。しかし、完成したチョコレートを包装する部屋は見ることができ、驚いたのは、そこに昔の「唐箕(とうみ)」という農具があったことだ。上に向かってラッパのような口を開けたそれは、穀物の実と殻などを選別するもので、内部に風を起こして殻を飛ばして実を選別することができるものである。聞くと、カカオ豆の実と殻を選別するのに使っているそうだ。

さて、このチョコレート色をした大きな梁のある古民家は、江戸時代からあった森亀旅館という大社の大きな宿屋の一角で、当時は300坪ほどの敷地に2階建てで部屋数は9部屋だったとか。各地からやってくる参拝客が大きな部屋に相部屋してさぞや賑やかだっただろう。今のお店の裏にある広い駐車場が全部旅館だったと思われる。その駐車場の奥を通る細い道が旧馬場通りで、明治時代に小泉八雲が人力車で出雲大社に参拝した道である。そして現在の40坪ほどの広さの沖野上ブルーカカオの玄関は、その昔は裏庭に面した縁側だったらしい。

テーブルに運ばれてきたカカオミルクは、ココアと思って口にすると一瞬薄味のココアかと思ったが、味わいは濃厚だった。このカカオミルク、ベースはカカオ茶。つまりカカオの殻で作ったお茶だった。

お店には、他にも興味深い製品が並んでいる。その筆頭はベイクドチョコ。ホワイトとミルクチョコがあるが、チョコレートを焼いたものである。口に入れると初めのうちはクッキーのようだが、粉っぽくなく、口の中で溶けていくのである。これを食べたお客様に市販のチョコレートも焼けるのかと聞かれて困ってしまうそうである。ちょっと製法に工夫が凝らされたここのホワイトチョコレートならではの芸当らしい。そして、カカオ豆を粉砕して粒状にしたカカオニブ。ローストカカオニブやホワイトチョコレートにカカオニブを混ぜたものが製品化されている。

お店の常連さんはカカオ茶とローストチョコレートのファンが多いそうだ、各国の産地から送られてくるカカオ豆にはそれぞれ香り味わいに特徴があり、迷ったら相談してほしいとのこと、普段の嗜好品とのバランスなどを考慮してアドバイスをするそうで、参考になるだろう。

ブルーチョコレートを手に店を出ると、右手に神門通りが見える。明治45年6月に大社の町に鉄道が到達して大社駅ができて、翌年の大正2年に大社駅の乗降客数は33万人にもり膨れ上がり、大正3年に神門通りが完成した。店のある馬場通りはそれにともなって整備されたと思われる。聞けば、昭和34年から平成18年まで、紅谷(べにや)というカステラを中心にした人気のお菓子屋さんだったという。今の店のカウンターテーブルなどはその頃のもの。玄関のガラス越しに見える店内が、古いガラスのせいでゆがんで見え、溶けたチョコレートようだった。

沖野上ブルーカカオ
営 業 10:00-17:30
定休日 無し
駐車場 あり
住 所 〒699-0711 出雲市大社町杵築南765−1
電 話 0853-53-5310




チョコレートの色が分かる

オリジナルチョコレートの並ぶ店内

漆喰の白色が眩しい妻入りの建物

店舗は江戸時代には旅館だった

深い青色をしたチョコレート

ブルーチョコレート

包装作業などがガラス越しに見られる

作業風景の見られるカフェ