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観光の小腹を満たすカマボコの逸品

かんこうのこばらをみたすかまぼこのいっぴん 

知る食べる体験する出雲エリア平成時代

出雲大社駐車場の北の端から神楽殿に向かって歩き始めると、蕎麦屋や土産物に挟まれて、間口一間ほどの小さな売店がある。店頭の冷蔵ショーケースには、出雲名物のアゴ野焼きが並んでいる。また、小さなハート型の蒲鉾を3つ串刺しにした淡いピンク色の蒲鉾などもある。アゴは飛魚のことで、飛魚のすり身を穴の空いたちくわより大きな形に焼き上げたもの。地元では酒の肴にも好まれる逸品である。


軒先の看板を見上げると油屋蒲鉾とある。その店の奥から油で何か揚げている「ジュジュジュジュ」という音が聞こえてくる。それ何ですかと聞くと、アゴ野焼きの磯辺揚げ(1本300円)だという。地元でも初耳の品だ。その場で食べている年配の男性のお客さんに味はどうかと尋ねると「おいしい」との返事、味に厳しい大阪からの観光客の方だった。さっそく私も作ってもらった。厚い野焼きが3個串刺しになっているが、油の中では3個バラバラで、揚がってから串に通された。アツアツである。ほんのり海苔の香りがして美味しい。地元では野焼きを食べるのは冷えているものが多いので、こんなアツアツを食べたのは初めてである。温かい野焼きも美味しい。
先の男性の奥様と思える方が手にしていたのは、飛魚を使ったアゴのメンチカツ(1個250円)。聞くと「美味しいですよ」とのこと。こちらも食べてみると、温かくてサクサクとした衣で美味しかった。飛魚のヘルシーなシーフードメンチカツである。
そして、アゴ入りたこ焼きだが、調理の様子を見ていると、なんと揚げたこ焼きだった。店主曰く、暖簾(のれん)に書いてあるでしょう。見ると赤い暖簾に「揚げ」の文字があった。具はタコだけでなくアゴ野焼きも入っていて、生地も粉だけでなく、アゴのすり身がはっているという蒲鉾屋ならではの一品に仕上げられていて、粉物と異なるトロっとした食感が美味しい。揚げたこ焼きは6個入りで500円。
こうして作ってもらって食べている間にも、次々とお客さんがやってきて、島根県西部の浜田市の人気蒲鉾「赤てん」を油屋蒲鉾がゴボウを加えてアレンジした「赤角てんぷら」を4人連れの女性が店舗前の席で旨そうに食べていた。
店頭のショーケースで「可愛いね」と言われていたのは、ハート型のピンク色の蒲鉾が3つ串に通された「縁結ばれカマボコ」である。これはそのまま食べるとプリプリした食感のいわゆる蒲鉾である。歩きながら食べるのに食べやすい。希望すれば、これを油でアツアツに揚げてくれる。
そして、しめ鯖蒲鉾「結の鯖」1460円がある。こちらは、しめ鯖と蒲鉾が合体された製品となっていて、しめ鯖好きのリピーターがいるという逸品である。
この油屋蒲鉾の工場は、神在月に神迎神事が行われる稲佐の浜から見える場所にある。しかし、外見はCocos Aburaya(ココス アブラヤ)という沖縄料理の店となっている。
油屋蒲鉾の前身は、明治45年に開業した国鉄の大社駅前に立ち並び始めた旅館街の中にあった油屋旅館で、現在の社長の表森田(おもてもりた)俊尋さんの曽祖父にあたる米次郎であった。今市で人力車の車夫をしていた米次郎が、思い立って旅館事業を始めたもので、表森田家が農業をしていた時に菜種油を作っていたことから油屋と命名したようだという。
大正時代になると大阪や京都からの直行便も運行されて、当初の大社駅は大正13年には今の旧大社駅の大きな建物に建て替えられた。それほど、たいそう賑わったのであるが、油屋旅館は昭和8年に廃業。それにともなって東京へ出た祖母が出会ったのが、沖縄出身の祖父。その祖父が終戦を迎えて無事に帰還したのを機会に結婚し、大社に戻って昭和23年に開業したのは鮮魚店だった。しかし、親戚の鮮魚店と競合するため蒲鉾屋に事業転換したのが昭和34年。出雲大社の結婚式の引き出物になった細工カマボコなどを作り繁盛した。近年は、食卓からの魚離れにともなって蒲鉾なども低迷する中で、出雲大社の遷宮を機に生まれたのが先に紹介した品々となる。もちろん、市内の食品スーパーなどには、油屋蒲鉾の赤板カマボコやアゴ野焼きも並んでいる。
そんな中で、工場に隣接してあるCocos Aburayaは、祖父の出身地にちなむ沖縄料理のお店で、八重山そば(ソーキそば)、とろとろソーキかつお出汁カレーなど沖縄にちなむメニューが並び、その中にパンチの効いたソースで美味しいアゴメンチカツバーガー520円などがあって、2階のベランダから稲佐の浜や弁天島を眺めながら食べることができる。
地元民からしても珍しい食べ物ばかりで、いろいろ食べた感想ばかりの内容になったけれど、どれも味わいよく、料理はバランスの取れた味付けで美味しかった。良質な高タンパク、低脂肪食品としてスポーツ関係者から注目されているカマボコは、いつもより歩く歩数の多い観光、レジャーの時に、ぴったりの食品でもある。油屋蒲鉾は、これからも新商品の開発を続けるということなので、とても楽しみである。

※その後の調べ
明治44年に書かれた『島根県旧藩美蹟』によると、大正時代に大社駅前で油屋旅館を始めた表森田米次郎の祖父は表森田庄五郎(寛政10年10月13日簸川郡高浜村生まれ〜明治16年2月23日没)といい、向学心旺盛で書物をよく読む人だった。18歳の時に、田畑の底土に斐伊川が堆積した肥沃な土があることをつきとめ、それを掘り返して表土として米や藍を栽培すると、豊作になることを突き止めて、広めたことを表彰された。また、その掘り返しに使う農具の窓鍬も生み出した郷土の偉人だった。(ライター 三代隆司)

油屋蒲鉾  出雲大社 神楽殿前売店
営業日時 毎週土日月 10:30〜16:00
TEL    0853-53-2324
住  所 島根県出雲市大社町杵築東262
※Cocos Aburayaの営業については季節により変動もあるためお確かめください。

この 油屋蒲鉾 に関してGoogleMapで検索できる緯度経度を以下に示します。

油屋蒲鉾 出雲大社 神楽殿前売店  35.400409, 132.684323
油屋蒲鉾本社・Cocos Aburay     35.398275, 132.673663




店の前に数人の列ができている

混雑する出雲大社神楽殿前売店 

アゴの焼きの磯辺あげ3個に串1本が通されている。それが2組並ぶ。

アゴの焼きの磯辺あげ

ファストフード店のように紙に包まれている

飛魚入りのアゴメンチカツ 

南国のビーチにある白いカフェのよう

稲佐の浜近くのCocos Aburaya