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黄金のウサギと月形神社

おうごんのうさぎとつきがたじんじゃ 

見る知る安来エリア平成時代

日本国内で月形、日形と名のつく神社は島根県安来市にしか無いのではないか。今流行りのAIで探すと月形神社は安来市荒島にあると表示されたが、対をなすはずの日形神社は検索結果にありませんでしたと表示された。日形神社は現地でなんとか発見できたが、昔から隠されているようなのだ。そしてこの両神社の由来には、なんと黄金のウサギが登場し、それにちなむ兎山が月形神社から200メートルほどのところにあった。


島根県安来市は、どじょうすくい踊りで有名な安来節の発祥地。その安来市の西端にある荒島地区は、江戸末期につくられた出雲名物番付にも載る荒島石の産地だった。荒島石は火山の噴火で流れ出た噴出物が溜まって固まった凝灰岩で、多少の火山礫を含んでいるが、その材質は火に強く、かまどやコタツ、火鉢などに使用され、また、水分を表面付近で遮断する特徴もあって、家屋の礎石や蔵の壁材などに重宝されて来た。荒島ではこの凝灰岩でできた小山をいくつも見ることができる。現に、荒島八幡宮、御崎神社、そして月形神社では、境内にその小山があって、小山に作られた階段を登ると上に何らかの社があるという他では見られない風景に出会える。もちろん兎山もそうした小山の一つである。
さて冒頭で触れた全国でも珍しい名前の神社、月形神社と日形神社であるが、月形神社は、南北に長い荒島地域の中央部の中海に近い場所にある。旧街道に面して鳥居があって、その鳥居には、他では見たことの無い月形神社の文字が浮き彫りなった銅板が掲げられている。境内に入るとそのまま奥に小ぶりの社が鎮座する。その社の背後に凝灰岩の小山があって、灰白色(かいはくしょく)の岩の部分は波にでも洗われたように、えぐられたような形をしている。この岩壁、現在は中海から130メートル余り内陸にあるが、昔は、ここまで中海の海岸線が来ていたのだろう。岩壁に目を近づけると、灰白色の岩壁に1〜3センチメートルほどの黒っぽい礫岩が混じっているのがわかる。小山の岩に掘られた階段を登ると上には、火伏せの神を祀る秋葉神社があって、荒島の旧道沿いの街を一望できる。
さて、黄金のウサギの伝説であるが、荒島八幡宮の福島宮司にいただいた旧荒島村鎮座神社略記の中に、享保5(1720)年にその頃の神主、福島藤原正珍が書き留めた日形月形両大明神社伝記の原文ではなく、以下の解読が載っていた。
「古くから兎山と呼び伝えられ、海に近く波にふもとを洗われながら、そびえるとても景色のよい山がありました。このあたり、たびたび嵐がきて、海が荒れくるうので荒島といっておりました。嵐になると「ゴーオー」と山じゅうの木が吹きとばされそうにゆれ、雨はたきのように落ちてきます。がけがくずれ、家が押しつぶされる。いつも青く光っておだやかな海も嵐になると「ドドーット」と高波がおしよせ、舟が流され、田んぼの米も野菜も流されたり枯れたりしてしまいます。人々は、食べるものもなく、病気になったり、大変苦しみ困っていました。そして嵐が来るのを大変おそれていました。
ところが、不思議なことに兎山に黄金の兎が現われ、人々に告げました。嵐や災害は人の力ではどうすることもできません。日、月の神様にお願いするがよい。日月の神様は、あのおそろしい波風をしずめ、きっと人々の難儀をお守り下さるであろうというと、兎は姿を消してしまいました。
そこで荒島の人達は、早速日形大明神(天照大神)、月形大明神(月読命)をお祀りして、この荒島の里をお守り下さるようお祈りいたしました。
するとどうでしょう。お月さまの光の輪が兎山を囲み、兎がむれあそぶ姿が見られました。そしてあれほどおそろしかった波風もすっかり神様のお力で平和な日々が続くようになりました。」(荒島保育所の上村先生の解読)とあった。こうしたことからか、月形神社には、月読命と共に神様のお使えとして兎が祀られているという。
さて、日形神社は、松江藩の作成した地誌『雲陽誌』に名前はあるが、月形神社のような由来は一言も語られず空白で、現代のグーグルマップにも表示されない。荒島の通りを歩いても、小さな案内看板ぐらいあっても良さそうだが、それもない。ところが先の旧荒島村鎮座神社略記に 「日形神社 荒島町東中 御祭神 天照大神 大祭 八月二十八日」とあり、やはり存在するのではないかと、現地をよくよく探してみると、荒島石の小山の下に小さな祠として存在していた。祠を覆うようにある荒島石の岩壁は、まさに日形神社にふさわしいピンク色だ。荒島石は地表近くで形成されたものは赤みや黄みがあり柔らかく、深くなると硬く、灰色や白に近い色になるという。先人は日形大明神、月形大明神にそれぞれ相応しい場所を選んだようだ。
日形神社が隠されているように見えるのは、荒島八幡宮の福島宮司によると、神社庁に登録のない、小さな地区の氏神であること、そして人家の立ち並ぶ路地の奥にあることから、表示なども何も無いのだそうだ。
それにしても、人々が天照大神を祀り太陽を想像させる日形神社よりも月形神社に重きを置いたのはどうしてだったのだろうか。(ライター 三代隆司)

参考図書
旧荒島村鎮座神社略記  福島 博(荒島八幡宮宮司) 2020年
旧荒島村鎮座神社明細(安来市図書館蔵) 福島 忠夫(荒島八幡宮前宮司) 1989年

この 黄金のウサギと月形神社 に関してGoogleMapで検索できる緯度経度を以下に示します。

月形神社   35.433406, 133.197921
兎山     35.433031, 133.195593
荒島八幡宮  35.434035, 133.209982 
御崎神社   35.436475, 133.205792




小ぶりな本殿の後ろに白い岩肌が見える

月形神社本殿と背後の岩壁

波しぶきに削られたような小さなでこぼこがある

岩壁は灰白色の荒島石

小さな社殿を覆うような岩壁がある

月形神社とピンク色の岩壁

中海と兎山の間にある湖岸道路の南側

中海のほとりにある兎山