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旧JR大社駅

きゅうじぇいあーるたいしゃえき 

見る知る出雲エリア昭和時代(戦前)

終点『出雲大社前駅』に到着。これまでご一緒いただいたゆかりさんとはここでお別れ。ここからは、地元出雲市を拠点に活動しているグラフィックデザイナーの石川さんに案内していただく。彼は建造物のファンでもあり、古代から現代までの芸術的な建造物についての知識は豊富である。「あまり知られていないのですが、大社の街には貴重な建造物がたくさんありますよ」という彼に、その歴史などを案内してもらうことになった。


◎旧大社駅
石川さんがまっさきに案内してくれたのが『旧国鉄大社駅』。国鉄から民営化したJR西日本は、1990年出雲市―大社町(当時)間の大社線を廃止。線路跡は自転車道などに途中の駅舎はプラットホームのみと、跡形をうかがえる程度だが、大社駅として使われていたこの建物だけは国の重要文化財として現在でも堂々と建っている。
「なぜ、山陰の主要都市松江駅や出雲市駅よりも立派な建物だったのか?」
当時の主要な交通手段は鉄道。一般の人はもちろん皇族が大社参りするときなども鉄道が使われていた。皇室から遣わされる勅使をお迎えする駅として、松江や出雲よりもその格を重んじたのだろう。駅事務所として使われていた一角には、勅使の控え室として使われていた部屋も残っている。
この駅の建築様式は開業した1924年から遡ること、およそ20年前に建築された旧宇都宮駅や旧二条駅などのデザインと同じ流れを汲む。駅自体が西洋の文化であることから、「造りは和風ですが、機能は洋風なんですよ。切符を買う時のカウンターなんてそうでしょ」という説明には納得。

◎ウサギと亀
「ところで、この駅には“うさぎと亀”がいます。探してみてください」と石川さん。駅の外に出て、正面から全体を見渡す。「うーん。何のことやら」と思っていると、屋根の上に“亀”を発見。その後“うさぎ”探し。かれこれ30分ぐらい経った頃、やっと発見。石川さんは「見つけましたね」とにんまり顔だった。

◎大社の街に残る建築物
「旧大社駅」から出雲大社方面、神門(しんもん)通りを北へと向かう。再び『出雲大社前駅』へ。
「この建物も歴史深いですよ。1930年、大社神門駅として開業。以後建て替えられることなく今に至ります。出雲大社のお膝元でステンドグラスの建物ですからね。当時としては衝撃的だったと思いますよ」と石川さん。
このまま出雲大社へ。拝殿、本殿で参拝を済ませたあと、石川さんが語る。「ひとつの見方ですが、瓦屋根の建物も純粋な日本建築ではないという説もありますよ。一時期熱く論じられました。瓦は元もと中国から伝わった物。このお社のような造りが、元来の日本建築だったという主張です。しかし、歴史的な背景としては、外来の文化であった仏教の影響無しには現在の神社建築文化が成立したとは考えにくいという説も強くなってきています。互いに融合して今の形が成立したとのかもしれませんね」。それには思わず、ハッとした。普段我われが当たり前と思っている常識も、長い歴史のなかで少しずつ変化してきたものであると、痛感させられた。
拝殿西側にある庁の舎(ちょうのや)の前で「この建物は菊竹清訓がデザインしました。これが評価され日本建築学会賞など3つの賞を獲得し、一躍日本の代表的な地位に躍り出ました。50mもの長さの梁を建物両端の太い柱で支えるという、巨大な本殿にも引けをとらないダイナミックな造詣。階段状で横にスリットがあるデザインは、出雲平野における秋の田園風景、つまり出雲地方独特のはで場(稲穂がけ)の美しさを想像させますね。だから、神社の境内という異種独特の空間のなかで、コンクリートの建物が違和感のない形で表現できたことがよかったのではないでしょうか」と話してくれた。
出雲大社をあとにして、大社の街へと案内してくれた。「藤間家屋敷」の周りをさり気なく出雲造りの町屋敷が囲んでいる。そこに突然「ここはダンスホールとして使われていました。現在は一般の方が普通に住んでいます」という西洋風の建物が姿を現す。出雲大社を中心として、それぞれの時代の背景が建物に現れ、人びとの生活と融合してきたのだろう。恐らくこの地域の人たちは、大国主神(オオクニヌシノカミ)の時代から、それを繰り返してきたのだろう。

◎チャリ旅を終えて
大社の街散策が終わった頃、空が赤くなってきた。案内してくれた石川さんも仕事へと帰っていき、ひとりで「稲佐の浜」へ。その道すがら、この旅を振り返った。
「急いで、でもゆったりと旅をする」そんなわがままが実現できるのが、今回の「チャリ旅&電車」の旅だったと感じた。ペダルを漕ぐたびにさまざまな人たちと出逢い、その土地の空気を全身で浴びることができた。それは、ゆったりとした贅沢な時間だった。
旧暦の10月に八百万の神がやって来ると伝えられる稲佐の浜に到着。ちょうど夕日が沈むところだった。今日の旅のクライマックスには最高の夕日だった。




旧大社駅にはいまでも多くの人が集まる

旧JR大社駅

一畑電車の出雲大社前駅

一畑電鉄出雲大社前駅

境内にあるコンクリート建造物の庁の舎

庁の舎(ちょうのや)

稲佐の浜に沈む夕日

稲佐の浜