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出西(しゅっさい)で出会ったおかげさま、いろいろ

しゅっさいでであったおかげさま、いろいろ 

食べる出雲エリア平成時代

謎多き遺跡めぐりで、おなかはペコペコに。斐川(ひかわ)町限定のカレーがあると聞き、道の駅「湯の川」に立ち寄った。そこで出会ったのは、ここでしか栽培できない不思議な生姜入りのカレーと素朴なお皿。カレーを堪能した後、お皿を手掛ける「出西窯」で、真摯に器作りに向き合う職人さんたちに出会った。


生姜とお皿に恋する昼下がり
斐川(ひかわ)町限定のカレーは、町の西はずれの出西(しゅっさい)地区でのみ栽培可能という生姜入りで、出西しょうがカレーと呼ばれている。スパイシーな香りが立ち上るカレーの一口目は、意外にもフルーティー。次の瞬間、ヒリリとした辛味が後を引く。「美味しい!」と思わず声をあげると、隣のテーブルのご婦人が「生姜だけど筋がなく、サラダ感覚で食べても美味しいよ。昔は、生姜の匂いで風邪をひかないから、嫁にやるなら出西がいいといったもの。斐伊(ひい)川が育む肥沃な土壌、川霧、水のおかげで栽培できるそうだわ」と教えてくださった。斐伊川はヤマタノオロチ伝説ゆかりの川。神話の川が育む生姜とは神秘的だ。
カレーを盛った素朴な風合いの黒い皿にも一目ぼれ。器も出西で作られているそうなので、訪ねてみることにした。

日差しにまどろむ出西窯の器たち
「出西窯」は、斐伊川沿いの田園地帯にあった。古い米蔵を改造した作業場、窯場、研修棟、展示販売所などが集った焼き物の里だった。
木造りの販売所をのぞくと、たっぷりと差し込む日差しの下でハイカラな器たちが、心地よさそうに並んでいた。カップをひとつ手に取ると、ほっこり心が温まる。どんな人が作っているのだろう。作業場は見学自由と聞き、早速のぞいてみた。
年季の入った大きな板戸を開ける。ふわりっ。土のにおいだ。蛍光灯のあかりが、黙々と手を動かす職人さんたちを影絵のように浮き上がらせる。
開窯は 1947年。農家の青年5人が民芸運動の先駆者河井寛次郎やバーナード・リーチ、柳宗悦らに学び、現在は、研修生から熟練者まで11人の第2世代の職人さんたちが器を作る。
ろくろを引く女性に声をかけると「器は、体に触れる機会のもっとも多い道具。使うほどに愛される物を作りたいの。研修棟に展示された先代の作品や、身近にいる先輩や同志たちやお客様に学ぶことが多いのよ」。まろやかな微笑みが器とそっくりだと思った。
作り手の顔が見えれば、器選びはなお楽しい。迷ったあげく、海の底を切り取ったような澄んだ青色と、掌にスキッと納まるフォルムが気に入って深鉢を購入することにした。販売所名「無自性(むじしょう)館」は、何事も自分の手柄ではなく、おかげさまという意味から命名されたそうだ。いい言葉に出会えたなと思った。
器を膝におき、車窓に流れる風景を見ながら斐伊川まで足を伸ばし、次の目的地にむかった。




出西カレーポスター

道の駅湯の川で見つけた手書きポスター

出西窯展示場

木造の温かみあふれる出西窯の展示販売所

ろくろ

熟練陶工さんの周囲には凛とした空気が漂う

茶碗への絵付け手元

一筆、一筆に心をこめる干支の絵付け