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木と布の世界にいやされて

きとぬののせかいにいやされて 

見る知る出雲エリア平成時代

斐川(ひかわ)町には、自然の素材に命を吹き込む職人さんや作家さんが工房や美術館を構えている。風土に根ざして生まれた物や作品には、その地の良さが見えてくる。そこで、木工芸品を手がける「工房おかや木芸」さんと、和のキルト作家八幡垣(やわたがき)睦子さんの作品を展示した「出雲キルト美術館」を訪ねることにした。


木工芸品のお里
まずうかがったのは、国道9号沿いの「工房おかや木芸」さん。店内には黒柿、ケヤキ、クリを使った家具や調度品、茶道具や食器、文房具など、木工芸品が木のぬくもりをまとって並んでいた。「神秘的ね」と旅仲間が手にしたのは、山水画のような黒い模様が浮き出た棗(なつめ)。「黒柿といって、微生物や土壌に含まれた金属などの影響で文様が生まれた樹齢100年以上の柿の木なんですよ。切ってみないと模様があるかどうかも分からない。入手も乾燥も難しい職人泣かせの材だけれど、神秘的な美しさを生かしたい」と、いとしそうに木の話をしてくださる代表取締役の岡英司さん。えがく曲線が手に優しいお匙(さじ)は、お椀の吸い口がヒント。指圧棒は都会に単身者が多いと聞いて考案。箸一膳でもメンテナンス可能と、とにかく一品一品へのこだわりは半端ではない。思えば、暮らしの道具は思い出を刻んでくれるパートナー。ならば、心のこもったものを使ってみたい。木肌を楽しみながら、お土産選びに夢中になった。

ありのままの私になれる空間
続いて訪ねた「出雲キルト美術館」は、斐川町の田園に建つ築200年の堂々たる風格の農家屋敷。加茂町出身のキルト作家、八幡垣(やわたがき)睦子さんの作品が展示されている。間接照明による光と影、木々や白砂、草花を取り入れた立体的なアート空間は、どの角度で見ても、どこを切り取っても物語にあふれていた。
着物や日本の古布をひと針、ひと針縫い合わせた作品は一幅の絵のよう。燃えるように咲き誇る椿の作品に足をとめた旅仲間は、「まるで本物のようね」と息をのみ、その場に吸い込まれたように立ち尽くしていた。
蔵のように区切られた小部屋には、カッと目を見開いた飛龍の作品。その空間に立った時、突然、全身の力がゆるりとほどけて涙がこみあげてきた。遠き日、母の懐に抱かれたような安堵感を覚えたのだ。力強さと優しさを龍は発していた。
ふと出雲地方には旧暦10月、全国の神様が縁結びに集うという言い伝えを思い出した。縁は新たな命を結ぶもの。ならば、ここもまた縁結びの空間だ。命をまっとうした古布、四季の移ろい、何気ない日々への思いそれぞれが、八幡垣さんの針仕事と感性によってはぎ合わされ、新たな命となってこの空間を訪れた人たちと出会うのだから。四季折々に展示替えされるそうなので、ぜひ、季節を変えて再訪したいなと思った。




ツボ押し 野津さんと長谷川さん

ツボ一押しで、運転疲れも解消(おかや)

木のスプーン

手に優しい木のおさじ(おかや)

もみじと長谷川さん

出雲キルト美術館で静かなひとときを過ごす

掛け軸と野津さん

四季の移ろいをめでる(出雲キルト美術館)