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白肌美人に寿ぎ色のメーキャップ

しろはだびじんにことほぎいろのめーきゃっぷ 

知る食べる出雲エリア平成時代

 鶴亀、松竹梅など縁起物をかたどったかまぼこ「祝いかまぼこ」は、島根県東部の出雲地方の結婚式の引き出物の代表格。出雲大社のお膝元出雲市大社町も祝いかまぼこ作りが盛んな町だ。寿ぎの味は祝福の証にお裾分けされてきた。優美な細工を施す職人技を訪ねて、町一番の老舗かまぼこ屋の暖簾をくぐった


 鶴亀、松竹梅、鯛、打出の小づち、宝船。あふれんばかりに折り詰めされた祝いかまぼこは、寿ぎに満ちた引き出物だ。優美な細工に心はなやぎ、チラシ寿司、炊き込みご飯、茶碗蒸し、焼きソバにその一片を見つければ子ども達は小躍りする。ご近所や知人からお裾分でいただくと、新たに誕生した夫婦への祝福とこれから始まるお付き合いが楽しみになってくる。
 「かまぼこを贈る風習は少なくなってきたけれど、かつて結婚式はかまぼこが傷まない時期が選ばれていたんですよ」と教えてくださったのは創業150年の老舗かまぼこ屋「小田川かまぼこ店」6代目主人小田川博俊さん。お祝いのほかにも仏事用も手掛ける飾りかまぼこの熟練職人だ。
 もっちり、ふっくら、まろやかと飾りかまぼこは一般のかまぼこ以上に食感や風味に富む。「特別の日のものだから、見た目も食してもよくなければ」。その秘密はまず材料にある。現在、中心となるのは上質なスケソウダラ。極上の材料を生かすのが職人の技術と勘がなにより頼りになる。
 すり身を型につめ、型を抜いて乾かし、色をつけたすり身を絞り出しながら模様を描き、蒸し上げ……すべての手作業が職人から職人へ無言で流れていくのは、職人一人ひとりの腕の高さとチームワークの良さの証。小気味の良い仕事ぶりに脱帽する。
なかでも模様を描き出す手元はみとれるように美しかった。下書きなしに、絞り袋で迷いなく描きだされる直線に曲線、丸に点。それが見る間につながり、意味ある模様になっていくなんて本当にドラマティックだ。
 しかも単に描くだけではない。すり身の温度が上がれば細工物の色も味も鮮度も落ち、やり直しもきかない。だから、掌のぬくもりや力の加え方にも気をつかう。すり身の練り具合や配合を含めて、人の見極めが生きている。工業製品では絶対出せない細やかさと心配り。それがあるから、飾りかまぼこをもらうと心に響くものがあるのだろう。