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神聖なる須佐神社の大杉

しんせいなるすさじんじゃのおおすぎ 

見る知る出雲エリア平成時代

出雲神話の人気者、スサノオノミコトを主祭神に、その奥方クシナダヒメ、さらに奥方の両親、アシナヅチとテナヅチを祀る、出雲市佐田町にある「須佐神社」。そんな著名な神々が鎮座ましまする須佐神社が、近年、パワースポットと謳われて女性を中心に大人気。しかしそこには、悲しき「木」の物語があった…


 須佐神社。出雲地方、あるいは神話に興味のある方なら、一度は訪れているであろうこの神社が、パワースポットと騒がれ始めたのは、世に言うスピリチュアルブームが勃発した平成17年以降であろうか。そして、そのブームの中心人物が、「須佐神社が一番のパワースポット」であると発言したことに端を発する。タイミング的にもブーム最盛期に差し掛かっていたこともあり、訪れる人が爆発的に増え始める。
 さて、パワースポットを有り体に言うなら、生命エネルギーに満ち溢れている場所とでも言おうか。大きな意味で精神がリラックスする場所と捉えてもいいだろう。実際、山間に開けた場に鎮座する須佐神社は、大社造の本殿と、その背後を覆う木々のレイアウトがなんとも心地よく、いるだけで森林浴にも似た感覚が味わえるのは間違いない。そこに持ってきて流行の寵児が太鼓判を押すわけだから、人は押し寄せる。もちろん、観光的側面で見るなら、町は潤い活気づく。それは喜ばしいことだ。しかし、急激な変化は歪みも生じさせる。その歪みを身ひとつで引き受けたのが、パワースポットの本丸と紹介された、須佐神社の「大杉」である。
 本殿裏にそびえる大杉に掲げられた説明板によると、幹の周囲が6メートル、根の回り9メートル、樹高約21メートル。推定樹齢1300年という概況。また、「此の大杉は昔、加賀藩から帆柱にと、金八百両で所望があった時、須佐国造がこれをことわったと伝えられている」とある。須佐の国をあげて大切にされてきたスサノオの懐に抱かれた樹木、それがこの大杉である。
 かつては子どもたちの恰好の遊び場であったろうこの大杉も、かつてはそっと頬を寄せて鼓動を感じられたであろうこの大杉も、今は昔。現在では、すっかり木製フェンスで囲まれ、側に寄ることは出来ない。なぜか。パワースポットの謳い文句「だけ」に誘われた有象無象がこの大切な大杉の樹皮を引っぺがして赤裸にしてしまったからだ。
 ブームが始まってから1年後、人間の手に届く範囲の樹皮はおそらく、一部の心ない人間が、自分にとって都合のよい理由をくっつけた御利益として持ち帰えられたのだろう。宮司さんは言う。
 「当時は大変でねえ、急場でこしらえた柵で入れないようにしたんですが、なかなか被害がなくならなくて、結局、しっかりした柵で取り囲み、樹木医さんの手を借りて、現在の状態まで戻ったという感じです。え?さすが大杉、かつての赤裸が嘘のようにキレイになりましたね、ですって?とんでもないです!かつての艶やかさには、まだほど遠い状態で…」。
 大杉の被害だけではなく、ブームとともに参拝者のマナーも低下し、拝殿に向かって手を合わせる人の前を平気で横切る子ども、それを注意しない親なども神聖な場には不似合いな行動も目立つようになったという。
 神社が有名になるのも、それで町が活気づくのもいい。しかし、神聖な場所と認識してやってくる以上、最低限のマナーは守るべきではないだろうか。
 仏の顔も三度までというが、神さんの場合はどうだろうか。優しい側面を示す神的なものに甘えるだけではいけない。




鳥居をくぐる

須佐神社の鳥居

壮観な本殿と神聖な大杉

本殿

人間と比べるとこんなに大きい

大杉

鬱蒼たる林に包まれる須佐神社

森の神社