出雲大社正門から神迎え神事の行われる稲佐の浜に向かう道を「神迎えの道」と呼ぶ。木製の鳥居がある勢溜から神迎えの道を浜へ向かって600メートルほど下って行くと、うどんの暖簾が風にたなびいている。「出雲そばの聖地でうどんなんだ」と、つい思ってしまう。綺麗に手入れされた二階建ての古民家の入り口には「小望月」とある。その引き戸を開けるとお客さんが10人ほどあって、賑わっている。
玄関のたたきから板敷のゆかに、靴のまま上がってよいのかどうかスリッパなどないかときょろきょろしていると、「そのままどうぞ」っと声が聞こえ、一人だからな〜と、表に面した窓際の一列に並ぶ席に向かい、分厚い手作りの木製イスに腰掛けた。北に面した窓際ではであるが、ガラス越しの竹の葉を通しても明るい光が手元にあった。白い紙に簡素に印刷された文字だけのメニューを見て目が止まったのは「黒いうどん」の文字。
しばらくして飴色の丼に入って来たのは、黒くはないが、白くもないうどん。運んできた女性が言うには、黒いパスタというとイカの墨が入ったりした真っ黒い麺を想像されると思いますが、これは七分づきのうどんですから。
うどんって小麦だから、全粒粉っぽいことだろうか。それとも米のような胚芽の混ざり具合だろうか、麦の胚芽ってどこだろうなどと思ったが、神門通りからずっと歩いてきたので、少々お腹も減っていて、ともかく黒でない黒が定かにならないうどんに箸をつけた。
うどんの表面がつるんとした感じではなく、包丁で押し切りしたときのゴワついた感じが残っているので、つるんと吸えなくて、箸で口に運びこむと、これまたぎゅっと噛んでプツンと切れる腰の強さとは異なり、決して芯が残っているわけではないが、荒々しい腰とでも言うのだろうかガジガジと噛むことになった。ガジガジ噛んで食べるようなところは、のどごしで勝負しない出雲そばとおなじようなところがあり、店主曰く「黒いうどんは出雲そばの釜揚げのイメージ」だというところが、出雲そば好きにもそそられる一言である。
その黒いうどんであるが、北海道産の小麦で、表皮、胚芽、胚乳を一緒に挽いた全粒粉を七分搗き程度にふすまを取り除いたものを粉として使い、その水分や塩の量も手探りで行き着いたオリジナル。他の食材も調味料も産地や原料、製造法まで目配りして選んで使っているとのこと。そして地元の人に楽しんでもらえるお店をと考えて開いたのがこの小望月であり、できるかぎりじぶんの手で作り、自然なものを自然な形で、我が家と思えるようなくつろぎのある場所を目指しているそうだ。
店舗は、明治の頃の建築と思われるとのこと、借家であったこの古民家の大黒柱と屋根の石見瓦の色合いなどが気に入って譲ってもらい改装したという。ワラが塗り込まれた土壁の部分が昔のままだそうで、黒くくすんだ壁が黒いうどんに似ている。二階からは近所のお寺にある大きなイチョウの木が見えて、秋は美しいだろうと思った。離れの手前に坪庭があり、離れにも小庭があって、くつろぎの空間となっている。
店の営業 不定(電話、ホームページにてご確認下さい)
営業時間 うどん 10時から15時まで
自然食ランチ 11時から14時まで
電 話 0853-53-0257
ホームページ http://comochiduki.jp/