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佐太大神ゆかりの神名火山

さだのおおかみゆかりのかんなびやま 

見る知る松江エリア平成時代

日本海に面した松江市鹿島町古浦とその南で宍道湖に面する松江市長江町の境にある朝日山(標高341メートル)は、『出雲国風土記』に記された四つの神名火山(かんなびやま)の一つに比定されている。『出雲国風土記』は、この秋鹿郡(あきかぐん)の神名火山のくだりに「いわゆる佐太大神の社は、その山の麓にある」と続けている。


多くの出雲の人々にとって、朝日山は宍道湖方向からみる姿が一般的ではないだろうか、それは、他のカンナビである仏経山や茶臼山の姿に似た横に広がった台形のどっしりした山容である。しかし、佐太神社のある地域で親しまれている温泉、多久の湯あたりからの姿は3つの峰が並び立つ山容を誇り、『出雲国風土記』に記されているように、その左手の麓に佐太神社が鎮座している。また、佐太神社は本殿三社が並ぶ出雲でも珍しい本殿であるが、それがまるで3つの峰を持つ朝日山の山容に似ていると感じるのは、私だけだろうか。
こうなると朝日山に登らねば・・・。昔はいくつも登る道があったというが、今は主に二つの登山道がある。一つは、日本海の古浦海水浴場ある側から登る道。もう一つは、宍道湖側からの道である。今回は古浦側から。
古浦の集落の外れに駐車場やトイレが整備された登山道入口がある。トイレの横から、これが登山道なのかと思うような立派な階段が上に伸びている。登っていくとおよそ五百段もあった。階段の終わりまで、およそ15分。ここからいきなり、細い地道の普通の登山道になる。頂上まで1.1kmと看板があった。6月に歩いた時は、途中、白く可憐に咲くササユリを見た。この道を25分ほど登って行き立派な石像に出会えば山頂はすぐである。まもなく石灯篭のようなものがあって、その中に小さな石の仏像が入っている。これは島根半島の各地に見られる四国八十八ヶ所霊場を模したミニ霊場の石像である。その石像を左の方へ進み小さな木橋の下をくぐるとお寺の境内に入って行く。出雲三十三ヶ所観音霊場の二十九番札所にあたる金宝山朝日寺である。本尊は十一面観世音菩薩で行基の作と伝わる高さ二尺五寸の座像。毎年五月一日から二十一日までご開帳があり、多くの参拝者で賑わうという。このお寺の東西に峰がある。まず東におよそ100メートルのところにある東の峰に向かう。境内の東側の階段を登り鐘楼の右脇を少し行くと東屋があって、そのすぐ先に木製のベンチが二つ置かれた東の峰がある。ここからは松江市街、宍道湖、空気が澄んでいれば遠くに出雲富士と謳われ、『出雲国風土記』の国引き神話に登場する大山を望むことができる。また、北を眺めれば、眼下に恵曇漁港、青く輝く日本海、さらに空気の調子がよければ隠岐の島を眺望できる。ベンチのすぐ近くに十字の印のある四角い石がある。これは島根県内に4つある一等三角点の一つで、そこから5メートルほど離れた木立の中に高さ1メートル50センチほど、太さは50センチぐらいの八角柱がある。柱に付いていた錆びた金属板に天測点とあったので、全国に48ヶ所あると言われる天文測量観測の基準点。昭和29年ごろに、この八角柱の上に天体測量装置を設置して観測したらしい。
さて次は西の峰に向かってみる。東の峰からは朝日寺の裏山を通って、距離はおそよ500メートル。途中には四国八十八ヶ所霊場の石像が並んでいる。木漏れ日を抜けるとコンクリートで整備された展望台に出る。眼下に宍道湖、そして斐伊川河口、さらに遠くには『出雲国風土記』の国引き神話に登場する三瓶山も見ることができる。その三瓶山の手前に見えるのが同じカンナビ山の仏経山である。ここからも大山が見え、なんと大山の麓の日本海、美保湾も見える。なお、この西の峰が朝日山の最高点344メートルとなっている。
このように展望が優れた峰々には朝日寺としての山名が付いていた。西の峰は神宝山、朝日の美しい東の峰は鎮朝山、お寺の背後の山は金峯山というのだそうだ。修験道の香りのする霊験あらたかな山名と感じる。また、境内の看板に、奥の院として屏風岩があると書かれている。別名「人岩」という。ご住職に聞いたら、鎮朝山の南側の下を覗き込むと、昔は岩が見えていたそうだ、それが下の方から見ると人の顔に見えて人岩と呼んだのだという。今は木立が生い茂って見えなくなったが、以前は、東の峰から屏風岩に降りる道もあったそうだ。
朝日寺境内には休憩所もあって、お寺の心遣いでお茶等が用意されている。また、汗をかく登山者に嬉しいラムネが販売されている。


この 佐太大神ゆかりの神名火山 に関してGoogleMapで検索できる緯度経度を示します。

古浦側登山道入口   35.518270, 132.979331
朝日寺        35.509642, 132.979127
宍道湖側登山道入口  35.507581, 132.979341
佐太神社       35.509017, 133.006516




どっしりとした台形型の山並み

宍道湖側から望む朝日山

眼下に右手に宍道湖、中央に松江市街地が広がり、左に大山が見えるパノラマ風景

東西の峰からは右に宍道湖、左奥に大山

年月を感じさせる宝形造(ほうぎょうづくり)と呼ばれる比較的小形の正方形の建物

1860年建立の金寶山朝日寺の本堂

手前に20センチ角の石が三角点、その奥の木立の中に天側点がある。ベンチも二つ。

東の峰。左に一等三角点、中央奥に天測点