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遠くから出雲を遥拝(1)

とおくからいずもをようはい そのいち 

見る知る出雲エリア平成時代

大国主の御門(みと)がここところにあったので、三刀矢(みとや)という。今の雲南市三刀屋(みとや)町の地名由来が『出雲国風土記』に見える。この御門は、神門(かむど)郡の神門や仁多郡の神御門(かみのみと)と同じように神域への門、つまり鳥居と考えられるという。それも、遠く離れた出雲大社、つまり所造天下大神(あめのしたつくらししおおかみ)、大国主の神域を示すと伝えているとされるのである。


そこで、三刀屋に行ってみた。三刀屋はヤマタノオロチ退治で知られる斐伊川の中流にあたり、その斐伊川に三刀屋川が合流している。それは、太古の昔からそのようで、『出雲国風土記』にも、三屋(みとや)川は多加(たか)山から流れ出て斐伊河に入る、とある、多加山は現在の島根県と広島県の県境にそびえる大万木(おおよろぎ)山とされる。二つの大河が合流するとなれば、古来より洪水の被害も多かっただろうと想像されるが、そうした場所も、弥生時代を経て、古墳時代に入ると灌漑の技術が発展したろうから、田畑も広がり始めたと考えられる。それと、風土記には斐伊川を行き来する船があり、三刀屋まで来ていた可能性がある。江戸時代にはもちろん川船が行き来する場所だった。今では、二つの大河に高い土手が築かれ、迫る山々との間に水田や街が広がり、高速道路が通っている。
この三刀屋には松本古墳群という複数の古墳が集まっている場所があって、今の雲南市文化体育館アスパルの北側およそ500メートルの山間に少し入ったところである。ちょうど三屋(みとや)神社本殿の後ろから車で行ける道があって、神社からは300メートルほどで、神社から歩いても行ける。古墳群の近くで舗装が終わると、車のこれ以上の侵入は禁止となっている。そこから50メートルほどで3号墳、その向こう側に1号墳、その下へ少し行くと2号墳となっている。古墳は整備されていて歩きやすいのだが、2023年時点で「クマに注意」の看板があって、熊除けの鈴を付けるなどしたほうが、気持ちが楽だろう。
ここには1号墳から6号墳まであるが、他にも古墳がありそうだという。発掘されているのは1号墳と4号墳の二つ。古墳の上に木々が茂っている未発掘の3号墳の脇を通って1号墳に向かう。1号墳は前方後方墳という正方形と台形の盛り土をつなぎ合わせた形状、正方形の下にスカートを履いたような形をしている。古墳時代前期に多い古墳の形という。1号墳の上に木々は無く、その小高い場所に登ってみると、そこはちょうど正方形の部分の上で、そこから台形部分を見下ろす様になっていた。さらに台形部分へ向かって降りていくと直径1メートル50センチほどもある大きな楕円形のゴツゴツした岩があり、さらにその向こうには、大きさ30センチ前後の石が並んでいるなどする。普通の古墳では、古墳の表面を覆う様に石が敷き詰められことはあるが、こうしたものは無いはずだが、奇妙なことである。この全長は50メートルのこの松本1号墳からは、2基の粘土で密封された木棺が出土しており、その中からは鏡、鉄剣、ガラス小玉、刀子、針などの副葬品が見つかっている。それに二つの木簡の底には、権威の象徴ともいえる赤色の水銀朱が敷かれていたという。島根県内でももっとも古い古墳の一つと考えられている。未発掘の3号墳も同じく前方後方墳で1号墳より少し大きい全長52メートル。未発掘である。これらの築造時期は4世紀中頃と推測されており、その背景には吉備勢力の進出、または出雲国造の西出雲支配の拠点だったなどの説があるという。
1号墳の説明看板から坂を下って行くと100メートルほどで2号墳にたどりつく、この円墳の上には、大仙智明権現の文字を刻んだ石碑が立っていた。鳥取県にある大山信仰が元になっているそうだ。また、3号墳の上は後世に墓地であった痕跡もあるそうだ。それと、1号墳と2号墳の間には、殿様墓と矢印のある看板があって、その先に見える竹藪を抜けて山裾の畑の脇を進むと池があり、さらに左手を進むと高さ2メートルあまりの2つの石の家の中に、それぞれ五輪塔のようなものが収められていた。これは松江藩の最初の藩主、堀尾吉晴の末弟で、三刀屋尾崎城に在城した堀尾宗光の墓という。こうした墓もあることは、この古墳のある所が古くから神聖な場所と認識されていたのだろう。ここの松本1号墳の上には、三屋神社が建っていたという言い伝えもあるという。

「堀尾氏発給文書及び系譜集 ―慶長五年以前―」 令和3年3月発行 編集・発行 堀尾吉晴公共同研究会

三屋神社        35.300479, 132.878186
松本古墳群1号墳    35.298939, 132.876483
松本古墳群2号墳    35.298025, 132.877059
殿様墓(堀尾宗光の墓) 35.299342, 132.877471




この鳥居と奥の鳥居をくぐって拝殿にいたる

三屋神社の鳥居

大岩がある古墳の姿におどろく

大岩のある松本1号墳

古墳の上にすらりとした権現さんの石が立っている

松本2号墳上にある大仙智明権現

この3号墳は1号墳より大きいが未発掘という

木々の繁る松本3号墳