メニュー


大社でみちくさする

たいしゃでみちくさする 

見る知る食べる出雲エリア平成時代

地元で美味しいお好み焼き屋があるよ、と知人に紹介されたので行ってみた。場所は、神門通り交通広場有料駐車場の出入り口の北側角。ガラスの引き戸を開けて中に入ると「いらっしゃいませ」の声が響く。テーブル席について、メニューを開いて真っ先に目に入るのは、手打十割の割子そば。次のページが丼もの、その次がお好み焼きだった。分厚そうなお好み焼きに細いマヨネーズの美味しそうな線が何本も引かれている。


このお店、みちくさで一番注文があるのは、お好み焼きではなくて出雲そばだそうだ。中でもぜんざいとセットになった割子そば甘味セット1,260縁(税込)、この大社をはじめ出雲のお店では、メニューの円の表記を縁結びにあやかって縁(えん)と書くお店が多々ある。縁を見ると損得勘定が薄れるかもしれないなどと思うが、縁起も担いである。

メニューのトップならば、今回は割子そば甘味セットにしてみよう。注文してしばらくすると、奥から店主の兵庫宏信さんがお膳にセットを載せて運んできてくれた。そばとぜんざいをセットで食べるのは初めてだが、テープルに置かれたセットを見て驚いたのは、割子に盛られた蕎麦の麺の細さ、これは出雲でも一番の細さではないか。普通の蕎麦麺の3分の1かそれ以下だ。さっそく海苔や青ネギの薬味を載せてと思ったが、まずは載せずに食べてみよう。ごく細麺を口に運ぶと、食感が繊細。出雲らしい甘口の汁が表面積の広大な細麺にからんでみずみずしい美味しさ。これは美味しい。次は薬味を載せて、海苔がたっぷりで海の香りがする。割子の3枚目はもみじ下ろしを付けて、舌にピリッとくる。この細麺なら、薬味なしの汁だけが美味しいかもしれないなどと思いつつ、ぜんざいに目をやると。焼き餅が大きく膨らんで裂けていて、そこから柔らかい部分が小豆の中に突入している。焦げた香りとともにカリッとした食感で、さらに小豆餡の汁に顔をつっこんだ柔らかい餅が小豆の衣をまとって口の中へ滑り込んでくる。これは絶品。

聞いてみると、この極細蕎麦は兵庫さんのお兄さんの手打ちで、それも小麦粉などの繋ぎを使わない蕎麦十割だという。蕎麦十割でこの細さが出せるのは工夫が詰まっていそうだ。そして、ぜんざいの小豆汁は、甘すぎず良い塩梅にしてあって、きちんと四角い塩昆布も添えられていた。

このみちくさは、昭和50年ごろに、「お好み焼きと焼きそばの店みちくさ」として店主のご両親が始めたお店だそうだ。その頃は、祖父母がこの場所で出雲物産館という土産物屋を営んでいたので、その一角にお好み焼き屋をオープンした。昭和48年のオイルショックの後で観光も打撃を受けていた頃だったが、店から200メートルほどのところに大社高校があって、昭和51年には野球部が甲子園に出場したこともあって、とても賑わっていたという。その頃、幼稚園児だった兵庫さんは、刻んだキャベツを運んだり、焼きあがったお好み焼きにラップをかけるなど、小さいながら手伝っていたそうだ。本人いわく「じゃまだったかもしれませんけどね」と笑っていた。

それからまもなく、大社高校は移転したが、高校の寮から出前注文があったというから、やはり人気があったのだろう。そしてみちくさを開店して数年後には、店の向かいの今の観光案内所の場所に、喫茶フルーツをオープンした。世は喫茶ブームでそれが地方へ波及した頃、こちらの方が流行ったのか、しばらしてあっさりとお好み焼き店は閉めたそうだ。喫茶フルーツは朝7時から夜11時まで営業して、地元の人たちがモーニングを食べて出勤するなど、常連客が盛り立てたお店だった。しかし、日本経済が立ち直った後の高度成長期の観光は、海外旅行とディスニーランドなどのテーマパークやリゾートへと人々が流れた時代。喫茶店はお店の数が増えた時代だったから、そのうち喫茶フルーツも閉めて母親は勤めに出てしまった。
それから17〜18年して母親は退職するやいなや、店をやると言い出して平成19年11月13日にみちくさを再オープンさせたのだ。その翌年からは出雲大社の遷宮行事が始まり観光客が250万人から600万人へと倍増し、店のある神門通りは大いに賑わって、今に至っている。その中で、自ずと地元のお客様より観光のお客さまが増えて、兄弟も手伝うようになって十割の出雲そばを提供するようになり、それがお好み焼きより注文が多いようになったという。

そのお好み焼き、肉玉のテイクアウトをお願いして目の前で作ってもらった。関西風のキャベツ、玉子、油かすに山芋がどっさり入ったもので、豚バラ肉を載せて3分、裏返して4分、さらに裏返して3分の調理で完成。この間、お好み焼きを押さえつけることなく、ふんわりもちもちのお好みきが出来上がった。お好み焼きの関西風にはモダン焼という焼きそば麺を挟んだタイプもあるが、みちくさには太麺と細麺があるというこだわり具合。これも細麺かなあ〜。
みちくさのメニューには他にも面白いものがある。「裏」と題されたメニューは、まかない料理の中でも美味しかったものだそうで、こともあろうに豚バラ焼き肉を出雲そばにのっけたぶっかけそばになっていて1,100縁。あの細麺でと思い浮かべると、食べてみたい一品だ。そして、アイスクリームの甘味に、ハートの形をした最中(もなか)の中にアイスや求肥の入ったものがある。この可愛らしい一品の名は、愛収最中(あいすもなか)となっていて、お客さまに喜んでもらいたいという店の人たちの気持ちが表れている。

そば・甘味 みちくさ
場  所 出雲市大社町杵築南859−3
休  店 毎週木曜日
営業時間 10:00〜17:00
電  話 0853−53−1718
駐車場  お店の北隣りに4台




薬味の付いた、わりごそばとぜんざいのセット

出雲そば甘味セット

玄関の上に木製の看板、屋根の上にもおおきな看板でみちくさとある

お店の外観

特製ソースの上にマヨネーズが波、縞模様になりその上に青のり

お好み焼き肉玉

テーブル席が二つにあとはお座敷となっている

44席の広い店内