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小伊津浦の歳神祭り

こいづうらのとしがみまつり 

見る知る出雲エリア平成時代

正月の小伊津は歳神祭りで賑わうと聞いていたが、その祭りはコロナでほぼできなくなっていた。それが、2025年正月は、5年ぶりに歳神さんを歳徳神社から自治会館に迎えて開催されると聞いて小伊津に向かった。日本海に面したこの漁村は、港から競り上がる山肌に石州瓦の赤い屋根の家々が張り付くように並ぶ。その様子が世界遺産の町、イタリアのアマルフィに似ていると、SNSなどで取り上げられて話題になっている。


夕方4時過ぎ、小伊津トンネルを抜けると、小伊津の家々を見下ろす高台に出てくる。そこからは、漁港に向かって車一台がなんとか通るほどのくねくねした道を下っていくことになる。すると途中に神社がある。今回の祭りの主役、歳神様の祠、歳徳神社を境内に置く三社神社である。本殿の左後方に歳徳神社があった。扉の前には、お米や小さく刻んだ餅がお供えされていた。昭和の時代までは、この小さな餅を数個入れたお捻りがたくさん供えられていたそうだが、今では住民の高齢化が進み、三社神社までの坂道や階段の登り下りが体に負担となって、参拝者がとても少なくなっているそうだ。扉が少し開いていて、中にあったはずの神輿はすでに無い。
港に車を停めて、斜面に立ち並ぶ家々の中程にある自治会館に向かう。坂道と石段を登ると門松で飾られた小伊津町自治会館の看板のある建物に行き着いた。
2階の大広間に上がると、正面が少し高くなった舞台になっていて、そこに歳徳神社から宮おろしされた神輿が金銀を交えた五色の幟でびっしりと囲まれて飾られている。歳神様は自治会館を宿として鎮まっているというわけだ。
午後5時になると、夕暮れ迫る自治会館の玄関戸が外されて、祓い清めが執り行われる。住民から選ばれた清め役が一軒一軒家に入るやいなや「潮清め!」と大きく発声して、手に持った潮タゴから清めの潮を右手に持った笹葉に乗せて、大きく1回だけ振り上げ、清めの潮を撒き散らす。家人が座して低頭していると、続いて大幣役が参上して、大きな白幣をゆっくり左・右・左と振る。こうして清めて歩く家々は百数十軒あまり。
それが終わると、自治会館で夜8時から5座の神楽が奉納された。小中学生6名の舞手は12月に練習を積み重ねて来たそうだ。会場はほぼ満席、舞手に孫がいて今年が最後という初老の男性は、デジタルカメラ持参で撮影されていたが、お孫さんが舞っている最中に舞台へ向かって御花の祝儀袋を投げ込まれた。この投げ込まれる数多くの御花は演目の間に名前の読み上げとお礼の詞がある。
それにも増して面白いのが「褒め言葉」と称し、舞の最中に客席から「待った、待ったー!」と声を上げて神楽の囃子を止める。囃子が止まると舞手はその場で座り、その声が上がった方を向いて正座をする。待ったをかけた男性が、舞子の舞の上手さを褒める。「褒めることとて知らねども〜、○○の若い衆(略)舞のすばらしさにチョと褒めましょか〜なんにたとえて褒めようか〜(略)」と。この褒め言葉が終わると、舞台横に座っていた主催者側の役員が、拍子木を叩きながら「東西、東〜西、東西」と言って舞の座へ出てくる。「只今 お褒めくだされしお方は〜(略)。」と御礼の口上を述べる。続いて褒めた側から歌が出される。この日は、なんとガッチャマンのテーマ曲を高らかに歌う。子どもたちは目を丸くして聞いていた。それを受けて、今度は役員が歌を出す。「わたしバカよね おバカさんよね〜〜」と細川たかしの演歌「心のこり」を、拍子木を抱きしめる仕草をしながら歌い出すと会場は大爆笑。昔は褒める側が民謡を出せば、受ける側も民謡で返したものだそうだ。
この夜、舞の途中には餅やお菓子撒きも織り交ぜながら11時過ぎまで続いた。昔は夜中3時ごろにお開きだったという。その頃の神楽は7座だったそうだが、延々7時間も!きっと褒め言葉と歌合戦だったのだろう
それにしても、地元の方いわく、もう3年もすると舞手がいなくなるので、この祭りも残せるかどうか。と言われる。神楽の翌日、神輿は町内を宮練りして三社神社に遷すのだが、港から三社神社への神さん通り(かんさんどおり)の130段余りの階段を、高齢化で神輿を担いで上り下りできなくなってしまい、今回は軽トラに積んで道路を行く。潮清めを先頭に、御棟札、獅子、御神輿が続き、御玉串、御酒樽、大幣、小幣などをそれぞれ手にした一行が進んでいく。お囃子は小型スピーカーから流れる拍子に合わせて吹かれる一本の生の笛もなり響いている。三社神社への途中では、軽トラの荷台にお賽銭をし、神輿に手を合わせている姿が見られた。(ライター 三代隆司)

参考資料
神の国の祭り暦  著者 勝部正郊 発行 慶友社 2002年
神去来      著者 石塚尊俊 発行 慶友社 1995年

この 三社神社 に関してGoogleMapで検索できる緯度経度を以下に示します。

三社神社  35.501464, 132.836931




神輿の前には、いくつかの黒い三方の上に玉串や鏡餅が供えられている

飾られた歳神さんの神輿

羽織袴の腰をからげた清め役が大きな声で「潮清め!」と叫ぶ

威勢良く「潮清め!」

右手に榊、左手に鈴を手にした少年の舞手が踊る

切れ味のある二人舞

先頭を歩く潮清めの後に、棟札、軽トラに乗せた神輿などが続く

宮練りの一行