出雲大社へ行ったら、近くの稲佐の浜で夕日を見る。ということが知られるようになってきた。稲佐の浜は「日本の渚100選」や日本遺産「日が沈む聖地出雲」に認定されているが、旧暦11月の神在月に神迎神事の行われる浜としても有名である。そこで近年、多くの人が夕日を楽しめるようにとベンチや東屋などが整備され、駐車場も広くなった。新たにできた防砂が目的の階段式護岸は、のんびり座って夕日鑑賞するのにぴったり。
いまでは、出雲観光ガイドのHPで夕日指数の予報もされている。さて、その稲佐の浜の夕日は、季節ごとにはどう見えるのか。また、その夕日をもっと楽しむ方法も紹介してみようと思う。
写真1の稲佐の浜からの夕日写真を見ていただくと、稲佐の浜の先には長い堤防を持つ大社漁港があって、夏至の近づいた6月のころは、夕日は海には沈まないで日御碕のある方向の山の端に沈んでいく。そして、この梅雨時の空気は水蒸気を多く含んでいるため、太陽光の持つさまざまな色の光が水蒸気にぶつかって拡散するため、遠方に届く赤い光が多くなっている。冬は赤色よりは黄金色の夕日になる。それは、空気が澄んでいて赤色の他に黄色やオレンジの光も届くようになるからである。
稲佐の浜から見て夕日が海に沈むのはいつ頃の季節か、稲佐の浜にある東屋の近くの「稲佐の浜」と刻まれた標石の位置(写真2)から見ると、9月の秋分の日ごろから3月の春分の日ごろまでは、夕日は目の前の弁天島の左側の海に沈んでいくのである。つまり冬ということ。旧暦11月の神迎神事のおこなわれる頃は、晴れていれば見応えのある夕日と波と弁天島と夕日のコントラストも美しいと思う。
この稲佐の浜の近くには複数の駐車場が整備されており、車で行く人も多いが、出雲大社から1キロメートルほどなので、歩いて15分ほどだから出雲大社から歩いて行くのも一興である。その場合、出雲大社から出雲阿国の墓の近くを通る国道431号の歩道を歩いて行く人を多く見かけるが、それよりは「神迎の道」を歩くのがおすすめである。出雲大社の大駐車場からすぐに海に向かわずに、南へ向かい、ますや旅館の前を通って、かねやそばの角を右に曲がって西の海を目指すのである。その道が神迎の道である。
また、出雲大社の勢溜(せいだまり)にある二の鳥居からなら、鳥居からそのまま西へ向かって歩くと横断歩道があるので、それを渡って西へ向かう路地を進むと良い。その路地が神迎の道で、毎月1日にこの路地のみなさんが中心となって、稲佐の浜まで歩き、浜で竹筒に潮を汲んで出雲大社はもちろん、海辺からいくつかの社を巡って祈る「潮汲み」の行事が神迎の道の会を中心に行われている。観光客の参加も可能である。そんな路地だから、玄関先に吊るされた竹筒がある家や、竹筒に花を生けるなどしてあって、それを見て歩くだけでも楽しい。また、この道の先に夕日が見えるラッキーな時期は、ちょうど秋分の日と春分の日の前後で、真西に太陽が沈む頃である。
潮騒の音は聞こえないが、稲佐の浜近くの奉納山にある出雲阿国塔のある場所からも、美しい夕日を見ることができる。
そして、夕日を見るお供にしてもらいたいパンがある。その名も夕日バラパン。昭和24年創業の地元のパン屋「なんぽうパン」が作っていて、出雲ソールフードと言われている逸品である。創業当時のパン職人の「バラの花のような美しいパンを作りたい」という思いから生み出されたという。花びらのような形をしたパン。
NHKの朝ドラ「ばけばけ」の主人公のモデルとなった小泉セツもこの稲佐の浜に来ており、夫の小泉八雲が海水浴を楽しみ、得意の背泳ぎで今の大社漁港あたりまで泳いで行く姿を見ていたという。その小泉八雲の好きなものは、セツによると西、夕焼、夏、海だったというが、稲佐の浜の夕焼について書いたものはなく、稲佐の浜では、「晴れた晩などには、この海上に、火の水平線が出現する。〜略〜その数がおびただしいので、肉眼で見ると、その光が蜿蜒(えんえん)として長蛇のような炎の帯をなして見えるのである。」と杵築雑記に残している。(ライター 三代隆司)
参考
「思い出の記」 小泉節子著 監修 小泉八雲記念館 2024年 ハーベスト出版
「日本瞥見記 上」 小泉八雲著 平井呈一翻訳 1986年 恒文社
この 大社の夕日を楽しむには に関してGoogleMapで検索できる緯度経度を以下に示します。
稲佐の浜 35.400314, 132.672366
出雲阿国塔 35.400929, 132.675817