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銀と緑の里

ぎんとみどりのさと 

見る食べる石見銀山エリア不明

出雲の地より、西へ。石見銀山のお膝元、大森の町を、ぶらり歩き。銀と緑の里の小路には、静かに歴史と生活が混在する。ちょっと寄り道して、サツマイモたっぷりのパンと三瓶(さんべ)そばを楽しめば、ほらここにも静かに歴史のにおいがしている…。


●銀と緑の里 〜大森〜
出雲の地より、西へ。海岸沿いから大田の市街地を抜けると、車窓の風景は山の緑に変わる。あるいは仁摩(にま)から南東を目指しても、海から山へと車窓の風景は変わるはずだ。
「石見銀山」と呼ばれる一帯は、銀を採掘、生産していた「銀山地区」と、銀を管理、流通させていた「大森地区」とからなる。
戦国の世には尼子氏、大内氏、毛利氏といった戦国大名らが争いを繰り広げ、江戸の世には幕府が直接管理する天領とされたこの地は、しかし今は昔と静かな時間が流れる街だ。
ぶらり歩き、大森の町。北から南へ、下手から上手へと進んでいくことにした。
まずは代官所跡前駐車場にレンタカーを駐車する。小雨が時折激しくなる天気のなか、空いた場所を見つけるのに少し時間がかかった。観光客、それも県外ナンバーが多い。
橋を渡り、小道に入る。ぶらり、ぶらり。アスファルトで舗装された道なのに、そこには古径の雰囲気があった。
連なる軒並み、続く板壁、漆喰、土壁。再建されたものもあるが、年月を経て周りに溶け込み、落ち着いた風合いを出している。大森地区の特徴は役人の武家と商人の町家が混在していることだとか。
この街を含めた石見銀山の地が、世界遺産の候補地に名を連ねたのは、産出した銀が日本だけではなくアジアに流通した上、他国の税制度をも変えてしまった、という歴史的意義をもつ場所であるため。
そのような世界史でも大きな役割を果たしたこの地も、特別誇るわけでもなく、いまは静かに往時の夢の跡を忍ばせている。その姿が逆に印章に残った。

●山のなかで焼きたてパン 〜中村パン〜
少し歩くと郵便局の手前左手に、アルミサッシを開けた軒先で、パンを売っている店舗を発見。"手づくり焼きたてパン"ののれん。「中村パン」さんだ。店舗はどうやら工場の一角のようで、なかではエプロンに三角巾姿の人びとが働いている。口に入れる人と、作り手とが、これほど身近な「食」も、いまではすごく珍しい。
ちなみに最初の郵便局は、日本一長い名前の「石見銀山大森郵便局」。赤丸ポストと赤の郵便自転車は現役だ。
「どれがおすすめですか?」
「どれもおいしいよ!」
ここはユニークなパンが多く、迷ったあげく、「お代官いも」と「きなこもちもち」を購入した。
味は店員さんの太鼓判通り。「お代官いも」はサツマイモのほっこり感が味。「きなこもちもち」は、パンのなかに餅があるという不思議なモチモチ感が美味。食べると、ついほこほことした笑顔がこぼれた。
なぜサツマイモパンが「お代官いも」か?実は石見銀山の有名な代官、井戸平左衛門正明(いどへいざえもんまさあきら)の愛称に因んでのこと。飢饉の際、当時まだ珍しかったサツマイモを導入して、領民を救ったことから井戸平左衛門正明は「芋代官」と慕われた。ちなみに「芋代官」の名は、ほかにも地元産のサツマイモジャムや地元産芋焼酎にも使用されているとのこと。

●〜お食事そば処 朝日庵〜
石見銀山公園駐車場に車を止めて、少し北へ歩くと「お食事そば処 朝日庵」さんはある。ここは三瓶そばのお店とのこと。「朝日庵」さんの前身は旅館だったそうで、その歴史は150年になるという。
からりと障子張りの引き戸を開け、店内へ。その引手の形にも心引かれる。 店内は一段上がった座敷と、テーブル席がある。 黒くなった太い柱と、鉄の引き手がついた戸棚、漆喰の白。これらを見ながら、奥のテーブル席へ行った。席に着くと元旅館だったこの店の中庭と、ガラス張りのそば打ち 部屋が臨める。
みなで温かな「かけそば」を頼む。こちらでは「釜あげそば」を「かけそば」と呼んでいるとのこと。
挽きたて、打ちたて、上げたての熱いかけそばが、盆に乗せられ出てくる。と、その隅にある薬味に少し驚いた。生のわさびだ。小さなすり皿の上、男性の親指くらいの太さのわさび。自分で好きなだけすって入れることができる。つんとした香り。ちょっとした嬉しいぜいたくだ。
できたての麺は出雲そばよりも少し細めか。つるりとしていて、とてもおいしい。雨に冷えた体にこの熱いそばは「何よりのごっつぉ(ごちそう)」で、私たちは暫く物もいわずにそばを啜った。

石見銀山をすべて見るには大体3キロと距離がある。まずはレンタカーを下手、中手、上手にいくつかある駐車場に置き、それぞれを拠点に見て回ることをオススメ。また龍源寺間歩(まぶ)前駐車場など有料の駐車場もある。いずれの駐車場も容量が小さい。また道が狭く、対面通行が難しい場所がある。
また石見銀山公園駐車場から龍源寺間歩駐車場までの道のりは、特に狭いので心してかかろう。




ぶらり歩き、大森の町。

石見銀山 大森の町並み

赤い郵便自転車は現役だ。

石見銀山大森郵便局 郵便配達の自転車

中村パンの前は、ほっこりいい匂い。

中村パン

朝日庵にて。ツンとした香りが鼻をくすぐる。

朝日庵のすりおろし生わさび